溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
少しホッとした自分と、残念に思う自分がいる。九条さんにいたっては、真っ直ぐ前を見つめる顔は明らかに不機嫌そうだった。
大人なのかと思えばちょっと子供っぽくて、私相手に一喜一憂して。しかもまだ腹の虫がおさまらないのか、発進が遅れた前の車に盛大にクラクションを鳴らしていた。
そんな彼が可笑しくて、愛おしくて、
「好きです、九条さん」
自然と口から零れていた。その声に九条さんは驚いたように一瞬だけこっちを見た後、ちょっと嬉しそうに笑った。
なんだかもうこれだけでどんなことも頑張れちゃいそう。恋って魔法だ。好きな人がいるって偉大だ。
「仕事終わったら、さっきの続きしてください」
横顔を見つめながら言うと、九条さんは意味わかってんのかよ、と半笑いしながら呟いた。