溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
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幸せな時間に浸っていたのも束の間。浮かれすぎて、自分のことしか考えていなかったものだから重大な問題が残っていたことをすっかり忘れていた。
車を降り、オフィスへと戻ろうとしていた私の視界に待ち伏せするように佇む朱音さんの姿が飛び込んできて、現実に引き戻された。
隣を歩く九条さんをチラリと見上げるとどうやら九条さんも気が付いたらしく「あいつ……」と小さくぼやくように呟いた。
ほんの数時間前まで打ち合わせをしていたのに、いつの間に。確かにまだまだ諦めないと宣言していた。だけどこんなにも早く突撃してくるなんて。
私たちのことを報告したらどうなるんだろう。発狂して、首でも絞められるんじゃ……。想像しただけで身震いがする。