溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
そんなことを考えていると、ビルの入り口で待つ朱音さんがこっちに気が付き無邪気な笑顔で駆け寄ってくる。心臓が嫌な音を立てながら早まる。
隠すこともできる。言わないという選択肢だってある。だけどやはりきちんと話しておきたい。コソコソしながら九条さんと付き合いたくないから。
「また来ちゃった!」
ハラハラとする私とは裏腹に、どこか機嫌よさそうにそう言う朱音さん。そして矢継ぎ早に「報告したいことがあって」と言った。
「お前はどんだけ待ち伏せすれば気が済むんだよ」
そんな朱音さんに九条さんが呆れたように言う。だけど朱音さんは気にする様子もなく、実はね!と、九条さんの腕を引っ張りながら上目使いで彼を見上げた。