溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜

「あの、いったいどういうことなんですか? 慧って誰ですか?」

肩を並べ、雑踏の中に消えて朱音さんを見送りながら、九条さんに尋ねる。

「なんだよ、コロパゴのファンのくせに知らないのかよ」
「えっ、あっ! もしかして井上社長?」

そこでやっとピンときた。井上慧(いのうえけい)、確かどこかの雑誌にそう書いてあったのを思い出した。

「じゃあもしかして朱音さんの好きな人って」
「あぁ、井上だよ。大学時代あいつら付き合ってたんだ。だけどお互い社会人になって、井上が忙しくなったりで数年前に別れた。でも朱音がずっと諦めきれなくて復縁を迫ってた。俺はうんざりするほど朱音に愚痴を聞かされてたってわけだ」

そうか、そうだったんだ。あの時、好きなの!と九条さんに言っていたのは、井上社長のことだったんだ。

そういえば帰り際に大切そうに経済ジャーナルを抱きしめていたっけ。もしかしたら井上社長が載っていたのかも。なんだ、謎が解けた。

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