溺甘豹変〜鬼上司は私にだけとびきり甘い〜
いまだに素肌の彼を直視できない私はシーツの中に潜り込んだまま思いきり首を振る。
「帰ったところで歓迎されないし、落ち込んで帰ってくるのが目に見えてますから」
根ほり葉ほり聞かれるに決まっている。どんな仕事をしているのか、どんな人と仕事をしているのかって。きっとどんな回答をしたって笑顔でよかったねと言うはずがない。
中学の時美術部に入ったときだって、自分の行きたい高校を告げたときだって、どんな節目のシーンを思い出しても不機嫌な両親の顔しか浮かばない。
「お前が思っているより単純な話かもしれないぞ」
そんな私を察してか、励ますような口調でそう言う。
「前から思ってたんだよ。なんでお前は帰省の補助がでるのに帰らないんだろうって」
その言葉にちょっと驚いた。そんな細かいことに気が付いていたんだ。