隣人はヒモである【完】
童顔も何も、顔のほとんどがその長い前髪で覆い隠されてるためよくわからない。
少なくとも30歳は超えてると思っていたから、ちょっと拍子抜け。
25歳? 見えないけど。
「あの、うち、布団ないんで。床で寝てもらうことになりますけど、大丈夫ですか?」
「……ああ、はい」
「すみません」
「いえ、全然」
六畳一間、家賃3万5000円のアパートの実情なんてこんなもんだ。
残念ながらうちには、客用布団を収納するスペースなんてない。
うちに泊まるか、なんて自分から誘っといてなんだが、もてなしというもてなしができるほどの生活的余裕はあたしにはない。
ていうかほんとは、泊めるべきなんかじゃなかったって、あたしもわかってる。よくわかってる。
こんなことして、あの秋元さんの反感を買ってしまったらどうすればいいのだろう。
家に押しかけられて泣かれたら? まして、自殺でもされたら。考えすぎだとは思ったけれど、そう考えただけでぞっとする。だってあり得ない話とは言い切れないから。
……でもこれは単なる人助けだ。あたしが変わってるからやるわけじゃない。相手がこの男だからやるわけでもない。
もし、逆に、部屋の前でうずくまっていたのが秋元さんの方だったとしても、あたしはきっと、部屋に招き入れていたはずだ。そうに違いない。
自分に言い聞かせて、今夜のことを無理やり正当化した。