ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「私も帰る!」
美佐子はその場に立ち上がったが、彼女を遮る玄は動かない。
「帰ってどうすんだ。今夜だぞ、お前の順番」
「……わかんないよッそ゛んなの!」
あっけなく気を削がれ、テーブルの上に突っ伏した。
聞こえてくるのは悲痛な嗚咽。
どんな言葉を掛けるべきか模索していると、真っ先に手を差し伸べる彩矢香。
「今日はお仕事だよね?」
「うん゛」
「いつも通り仕事をして、日常をこなすの。終わるのは何時?」
「……グズッ、に゛時」
「じゃ、それから一緒に居よっ。気付けば朝になってるはず! ね?」
おもむろに顔を上げた美佐子は、化粧が崩れてパンダになっていた。
——フッ。
やっと、全員の表情がほころぶ。
「だよね。そ、そうだよね。呪いなんかあるわけないもん! はるかだってどうせ、男に殺されたのよ」
「「えッ⁉」」
旧友の“裏の顔”を知る。これが、毎朝の恒例行事になるとは。
「どういうこと?」
「はるかはね、ベッドの上でしか価値の無い女なの」
軽蔑を滲ませた吐露によって、浮かび上がる真の姿。
僕らが招かれたあのマンションは、血ではなく、身体で繋がる父親に買ってもらったモノ。
ゴルフバックや独り暮らしにしては大きい冷蔵庫だって、家の中にあったモノすべてを、パパ・タニマチ・パトロンが買い揃えた。
混同を避けるためだと、スマホにその名で登録してあったという。
「フツーに彼氏だっているし、それも何人も! なのにリョウとべたべたしてさ。自分の利益になるなら、簡単にカラダを売る女だから、男に恨まれて殺されても、なーんの不思議もない」
「ミサコ……」
驚いた。
表向きは、昔と全然変わらない仲の良さだったのに、美佐子がはるかを見る目は、真っ黒だった。
笑ってしまうくらいに。
「とりあえず、化粧直してこいよ!」