ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】




「ちょっと貸して!」

彩矢香はまだ諦めていないようで、玄の携帯を左手に持ち、右手で自分のスマホを操作した。

「何をするの?」

僕の素朴な問いかけを制し、口唇の前に人差し指を置いて、電話を掛ける。

いちいち色っぽいその仕草。

『もしもし。私は宝泉彩矢香と申します。そちらで出版された伊達事件の真実という著書を担当した編集者の方をお願い致します』

どうやら、玄の情報から出版社を拾い、自分の携帯で番号を検索したようだ。

『あ、突然お電話ですみません。実は、ご家族の方に情報提供をしたいのですが』

「ぇ⁉」

思わず出た声を、僕はとっさにふさいだ。

トントン拍子に話は進み、彩矢香は携帯の持ち手を替え、右の手首を揺らす。

意図を理解した美佐子は、紙としてナプキンを用意。だが、ペンが無い。

ちょうどその時、料理を運んできたウエイトレスのそれを借りる。

『はい。はい……。はい』

書かれていくのは数字の羅列。固定電話の番号だ。

通話を切った後すぐ、彩矢香はフゥーっと深い息を吐いた。

「ゲッツ! 著者の自宅の番号。奥さんがいるって!」

行方不明が事実なら、出版社も家族も見つかることを切に願っているはず。

だから、個人情報の提供にわきが甘くなる。

「でしょ?」

ニコッ、と微笑む彩矢香。まるで小悪魔。

賭けにここまで大きく出れる度胸と発想の転換。

やはり、彼女は宝泉賢矢の娘であると感心する。

「さて……」

熱々のポテトフライを片手に、メモをした薄っぺらい紙を眺める彩矢香。

構えるのもムリはない。これからが重要だ。

携帯を持ったまま躊躇している彼女に僕は言った。

「今度は僕に任せて! 彩矢香がやろうとしていることはちゃんと分かってるし、僕には相手に受け入れてもらえる自信がある。から……ね?」

きっと、彼女の脳裏には聖矢との一件がよぎったはず。

「うん、分かった。お願い」

すんなり、メモした紙ナプキンを僕の前にスライドさせた。



 
< 115 / 160 >

この作品をシェア

pagetop