ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「ミサコは? 一緒に行く?」
彩矢香の問いかけに、前髪を触りながら気怠そうに答える美佐子。
「美容室の予約してるんだよね……それに、夕方まで寝ないと仕事キツいし」
結局は、目先の日常と見栄を優先して、危機感などどこへやら。
ま、こちらとしては好都合。
「いいさ。今夜も朝までだし、今のうちに寝とけ! 2時頃、店の辺りに行けばいいだろ?」
「そ~だなー……月曜だからヒマだと思うし、1時ぐらいに上がれるかも」
時刻は10時半。
おおまかな流れを確認して、僕ら3人は店を出た。
歩いて帰ろうとする美佐子を彩矢香が止めると、
「家、ここから5分だから!」
と、バカみたいに大きく手を振る。
こっちは連日寝てないのに、この女の身勝手さにはほとほと呆れた。
「彩矢香、大丈夫?」
「なにが?」
「運転。代わってあげられたらいいけど、まだ免許取ってないから……」
「ううん、全然! ……ってのはちょっと強がりかな。でも、大丈夫。ありがとう」
本当は、玄の言う通り、電話で訊けばよかった話。
もっともらしいことに加えキレてもみた真の目的は、彩矢香との時間の共有を1秒でも長くするため。
そして、第三段階を実行するためでもある。
本当は免許を持っているのにウソをついたのは、れっきとしたその一環。
これまで順調にきている。
彩矢香と再会して、家族にも受け入れられた。
あとは彼女の気持ち次第なのだろうが、人のそれはあてにならない。
まるで街の中のデジタルサイネージみたく、すぐに移り変わるもの。
だから、最終段階の前に、確固たるモノが欲しいんだ。
親も承服しかねない“既成事実”という名の保険が……。