ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】




「今の反応で分かったわ。まだこれを読んでいないのよね? よかったら、どうぞ」

玄の携帯で見た表紙が、実物大になって僕の手に。

そんなに厚くはないが、何故だかズシリと重く感じた。

「男の子ならシンパチ。女の子ならマリコにしようって、この人と決めてたの。それを見たら、理由がわかるはず」

沙奈は、写真立てを恋しそうに見つめながら言う。

「なのに、妊娠がわかった日にいなくなっちゃったけどね……」

絶句するほかない。

彩矢香だって、目に涙を溜めていた。

彼女の夫は、赤ん坊の父親は、妻の妊娠に怖気づいて逃げるとんだゲス野郎ではないか、と。

僕にとってはそんなことよりも、あることが気になっていた。

「あの……どうして手袋を?」

たしかに年の瀬が迫る冬だが、温かい家の中でもしている、しかも左手だけのそれ。

と同等に、訊かないのは不自然だ。

「これは…」
「どうぞ」

いささか答えを遮るように、未だ謎の存在である宇治木が茶でもてなす。

「「ありがとうございます」」

「まずは僕から」

丸いお盆を床に置き、正座をして畏まる彼。

「改めまして、僕は宇治木リュウセイといいます。父が鹿児島出身で、幕末維新の西郷隆盛を敬愛していたから、隆盛と名付けた」

この手法……。

「自己開示、だよね? 僕も心理学を学んだことがあるから知っている」

「え⁈ ぁ、はい」

「そのおかげで、何人もの犯罪者をオトせたよ」

「……け、刑事さん⁉」

「あぁ。現場に出ることはあまりなくなったけどね」

ということは、キャリアか。玄も連れてくればよかった。



 
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