ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】




腕の中で眠った赤ん坊をベビーベッドに移すと、戻りがてら白い手袋に指をかける沙奈。

「本当はね、夫の敬太がいなくなる前から、私は妊娠に気付いていたの。でも、話せなかった。不安だったのよ……だって、私たちには宿命があるから」

「宿命?」

「えぇ。それを子供にも背負わせるのかって、すごく恐かった」

スッと現れた左手の素肌に、僕は固唾を飲んだ。

「小指が……」

ない。目を凝らしてみても、無い。

僕と彩矢香の動揺をあらかじめ見越していたように、彼女は再び僕らの前に座り、落ち着いた口調で教えてくれた。

「これが、終わりの儀式よ」

「儀式……ぁ」

たしかにあった。そんな文言が。

しかし、すぐさま宇治木が警鐘を鳴らす。

「だけどこれは一時的なもの。33日後、鬼の肉体に磨理子の魂が宿る。その文字通り、今度は鬼が呪いを伝播する」

彼は沙奈と見つめ合い、彼女は静かに頷いた。

「っ、まさか、あなたの身体に?」

「そう。でも、敬太が真の答えを見つけてくれたから助かったの」

僕は幼いころから、自分以外の人間を信じたことはないが、ふたりの話は妙に記憶へ溶け込む。

すなわち、信用に値した。

呪いというものに懐疑的で、むしろ軽く蔑んでいたぐらいの僕はもういない。

そして、いよいよ核心に迫る。

「何をすれば……真の答えって何ですか⁈」

一度目を伏せた沙奈は、なぜか僕ではなく、彩矢香を見た。

「前を向きながら、後ろも見れるモノ」

「ぇ?」
「…………」

ここでまさかのクイズ。いや、なぞなぞに近い。

「女の子なら、いつも持ち歩いている物よ」

そのヒントを聞き、バッグの中を探りだす彩矢香。

化粧ポーチを手に取ったとき、

「あ! わかった!」

と、僕を見る。



 
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