ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】



教室が笑い声で揺れているのか、それとも私の視界だけがそうなのか。

嘲笑の晒し者だった。その中に、好きな人もいた。

あまりに哀しくて、無性に恥ずかしくて。

教科書や筆箱をかき集めて立ち上がり、トイレの個室まで走って、泣いた。

息を吸えば涙がこぼれ、長いため息を吐いてみるけれど、やっぱり溢れ出て。

だけど、自分以外は誰も責めたりしていない。

私が人見知りのデブだからいけないんだと、そう思うようにした。

その自覚があったから、淡い初恋が桜の花と同じように寿命が短かったのも、意外と悲しくない。

クラスの人気者である水嶋辰巳くんは、私にとってずっと憧れの存在だった。

とても明るくて、誰にでも愛されている彼は、私と正反対だから惹かれた。

2年の夏ぐらいから自然と彼に視線が向くようになって、春には無意識にその横顔をデッサンしてしまうまでに。

それをあの人たちに取られて、結局彼ごと奪われる。

水嶋くんは、学校で一番美人な宝泉さんと付き合った。

悔しいとか、そういう気持ちはなかったかな。

むしろ、ふたりはお似合いだったから、あきらめがついて清々した。

とは言っても、踏んだり蹴ったりの春。

家では、相変わらず男と酒に夢中な母。

私の支えは、そらからもらった「ガンバレ!」のメッセージだけだった。

『なんだよ、これー!』

教室でたまたまその文字を見た橋口くんが、大切な筆箱をこれ見よがしに持ち上げた。

『か、返してっ゛!』

わかってる。2度目だし。

そうやって必死になれば、相手がもっと面白がると。

でも、そらから貰った筆箱だけは、どうしても触れられたくなかった。



 
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