ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】



『返してよ゛!!』

死に物狂いで取り返そうとしたが、向こうはどんどん仲間が増えて、投げ回しがはじまった。

『大事な物なの! や゛めてっ!』

『うぉーい! 珍しくマジじゃん』

『ほら、書いてあるぞ。ガンバレー!』

『『ガンバレー』』

『『ハハハハハハッ……』』

何度も机の角に腰を強打して、それでもめいっぱい手を伸ばす。

骨がいくら折れたって構わない。みんなからゲラゲラ笑われるのだってどうでもいい。

絶対に、絶対に取り返したかった。

『だったら追いついてみろよ! デーブ!』

あいつは廊下に出て、中央階段に向かう。

もちろんすぐに追いかけた。すぐ横で舌をだす取り巻きの男子に目もくれず、とにかく必死で。

やがて、うすら笑いを浮かべながら屋上に出た。

ゼエゼエと切れる息の合間に、切実な願いをぶつける。

『ン゛ッ、返して……な゛、何でもするから゛! 本当にハァハァ゛、大事な物な゛の゛!』

すると、ニヤリと笑って言う。

『お前にしてほしいことなんかねぇよ! ばーかッ!』

『ィャ……』

手から筆箱が離れ、そらと空が重なる静止画。




スローモーションで舞うペンや消しゴムに手を差し伸べても、遥か奈落の底に落ちてゆく。

『イ゛ヤ!』

すぐに遠くで聴こえた。カシャンッという絶望の音色が。

『ヤだ……イヤだヤだ』

私は階段を駆け下りて、唯一の支えを助けに行く。

でも……。


『…………』


バラバラになっていた。

『っ……』

骨がいくら折れたって構わない。だけど、心が折れたら立っていられない。

『ごめん……そら、ごめんッ゛……』

散らばった思い出をかき集めていたら、

『筆箱ぐらいで泣くなよー。買ってやろうかー?』

『『ギャハハハハッ』』

と、屋上で笑うあいつら。

許せない。

そんな感情も湧かないくらい、私の心は途方に暮れていた。



 
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