ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「キミらには言っておきたい。私は今でもあの頃のことを後悔している。あの子に何もしてやれなかった自分が許せないんだ……なんて、いまさら遅いんだがな」
――……。
先生は持ってきたジョッキに一度も口をつけず、僕たちの居るテーブルから去る。
その哀愁漂う背中はとても小さく見えた。極端に増えた白髪の数は苦労の証か。
「ハタセン、老けたな」
「あぁ。老けた!」
すると、
「サチエ」
「「え?」」
誰かがボソッとつぶやいた。
「大貫の名前はユキエじゃない。サチエだよ」
「……ヤス?」
彼だ。
先生だけじゃなかった。良心の呵責を今でも大切に保管していた人物は。
「なんか調子いいこと言ってたけど、担任のくせに名前もちゃんと憶えてねぇじゃん」
「そういえば、お前……」
康文と大貫は千葉県の同じ小学校を出ていた。それどころか幼稚園も一緒で、正真正銘の幼なじみ。
「まぁそう熱くなるなよ! たかがあの女のことでさ」
すっかりデキ上がっている直哉が、康文の髪をグシャグシャにする。
「触るな゛っ!」
――ドンッ!
その手を力強く押しのけ、直哉の身体が壁に打ちつけられた。
実はこのふたり、昔から馬が合わない。
「何すん゛だテメェ!」
すぐさま胸ぐらを掴み、とんだ修羅場。
「もーう! やめなよ、みっともない!!」
すぐさま美佐子が間に割って入り、拳が交わるのは避けられる。
しかし直哉は、暴力の形を言葉に変えた。
「フンッ、ハタセンをとやかく言えるのか? お前だってアイツを笑い者にしたよな!」
「くっ……」