ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
朝の渋滞に巻き込まれながらも、車は田園調布の高級住宅街に入った。
眼前に、背丈の倍以上ある立派な門。
「…………」
何度見ても【圧巻】の一言に尽きる。
丹精に造られた長い石畳、錦鯉と戯れる金色の鯉、手入れの整った植木。
大理石を敷き詰めた玄関で見上げると、宮殿さながらの高価なシャンデリア。
今のところ、視界に入るモノ全てが大金持ちの象徴。
「おかえり、彩……あら?」
まず出迎えたのは、宝泉香澄。彩矢香の母親だった。
「おひさしぶりです。相変わらずお綺麗で」
なんて口をついて出るほど、昔と変わらぬ美貌。
「タツミ君じゃない!」
「ねぇお母様。朝食、たっちゃんも一緒にいいよね?」
「もちろん! いいに決まってるわ」
そう言って、快く招き入れてくれた。
「遠慮せずに上がって。もうすぐあの人も下りてくるから」
母親はすかさず僕の後ろに回り、肩幅を確かめるようにそっと手を置く。
「うん、ガッチリしてる! もう大人の男ね」
「そうですか?」
背中を優しく押し、椅子に座るよう促す。
緊張は拭えず、助けを求めるように彩矢香の姿を探した。
「あの娘、キッチンにいるわよ」
「ぇ?」
「最近ね、朝と夜はあの娘が作ってくれてるの」
「彩矢香が⁉ 料理を⁈」
「フフッ、意外でしょ? 私も驚いちゃって」
「失礼しちゃうわ!」
突然、背後からのおしとやな怒声。僕らはとっさに振り向く。
「ぁ……」
そこには、エプロンを首から掛け、後ろ手に蝶々結びをする彼女がいた。
急に女らしさを見せつけられ、僕は魅せられる。
「意外って何よ!」
「あらまぁ、ごめんあそばせ」
母親は居直って両肩をクイッと上げ、
「怒られちゃった!」
と、舌を出して言う。
歳が倍も離れているが、とても愛くるしい。
ふたりはキッチンへ行き、映画でしか見ないような長いテーブルに僕ひとり。
とにかく視線が落ち着かずにいると……。