ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
逃さなかった。無言の困惑、その一瞬を。
「起こさなく」
「さっき家を出たわ! ここから少し遠い小学校に通ってるから」
僕の言葉をかき消すように言う母親。
見るからに取り繕っている。
「そ、そうなんだよ。朝だけはいつも3人で朝食を、な?」
「……うん」
それも、ふたりして。
たしかに、どこの家庭にも触れてはならぬ秘密がある。だから、あえて深く訊かないことにした。
そして、まずい空気を払拭する対義語を放つ。
「これ、美味しい!」
「そう? よかった」
「ホントに彩矢香が作ったんだよね?」
「……へぇ~。疑ってるんだ」
目を細め、冷たい口調。さらに気まずくなるが、すかさず助け舟。
「俺だって初めは信じられなかったぞ! 海外への留学がこうもお前を変えるなんてな」
「もーう、お父様まで!」
一際、笑い声に包まれる食卓。
「そういえば、お手伝いさんはいないんですか? イケメンの
執事とか」
「いないのよ。雇っているつもりで、毎月決まった財団に寄付をしているの」
「世の中には、手を借りたい人や場所がたくさんある。そう
ですよね、お父様?」
「あぁ」
「ホントはね、たまに業者さんを呼んで掃除してもらってるの。内緒よ、クスクスッ」
「聞こえてるぞー!」
「「ハハハハッ——」」
なんて素晴らしい家族だ。
久々に味わう団欒は、ジャムのように甘く、ミネストローネのように温かかった。
しかし、急な展開を見せる。
「ママ~、お腹空いたぁ」
無邪気な声がして振り返ると、そこには。
「聖矢⁉」
「た、たつにぃ……」
いないはずの弟、宝泉聖矢がいた。