ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
超一流ブランドの革靴を履き、母親の持つ鞄に手を伸ばす。
「そうだ、タツミ君」
「はい」
出る間際、父親は振り向いて、願ってもないことを言ってくれた。
「娘は今、彼氏がいないみたいだぞ」
「ちょっと!」
当の娘は動揺を隠せず取り乱す。一方、気持ちの高揚をひた隠す僕。
「じゃあ、彩矢香次第ですね」
「と、言うと?」
「僕の気持ちは昔と変わらないので」
「ッ⁉」
ここまでハッキリ返すとは思いもしなかったのか、父親は面食らっている様子。
当然、僕を見つめる母娘も。
「ハッハッハッ―― この俺に臆せず、キミは実に清々しい男だ」
「ありがとうございます」
肩を二度トントンと叩く。その強さと微笑みを“激励”と受け取った。
弟の聖矢よりも先に父親の信頼を得られるとは、なんとも嬉しい誤算。
まさしく、彩矢香と再び出会うことは運命だったのかもしれないと思えるトントン拍子。
それでもやはり、念には念を……。
父親を見送ったあとで、煮え切らない疑問を掘り返した。
「ところで、聖矢のヤツ一体どうしたの? 昔はもっと明るかったのに」
――……。
ようやく、母親は重い口を開く。
「誰にも言わないと約束できる?」
「お母様⁉」
「……いいの。タツミ君ならあの子を元に戻せるかもしれない」
「でも!」
「いいから、パパの書斎にあるアレを持ってきなさい」
「……ぅ、うん。わかった」
彩矢香は納得しきっていない様子で豪邸の奥に消えた。
ティーポットから食後の紅茶を注ぎ、僕が座っていた位置にカップを差し出す母親。
――カタッ。
「とりあえず座って」
「は、はい」
物々しい雰囲気。爽やかなカモミールの香りが漂っても、心は落ち着かない。
「もう1年が経ったわ。あの事件が起こってから……」
「事件⁉」