ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】



「じゃあ教えて。弟と事件のことを話したりした?」

「ぇ、それは……思い出させるのが可哀想だから、家族全員で触れないようにしてる」

「やっぱり。それが逆効果なんだよ」

僕は大学で心理学のカリキュラムも受講していた。

深く精通することで、法を犯す者の心理を読み解けると思ったから。

「思いや不満を溜めこんでいる状態なら、誰の言葉も心には届かない。耳を傾けてほしいならまず、全部吐きださせて心を空にしてあげるんだ」

そうすることで、人の言葉を取りこむ容量を持つことができる。

これが、いわゆる

【カタルシス効果】

だ。

「僕に任せてほしい」

「……わ、分かった」

彩矢香を連れだって、大きく歪曲した立派な階段を上がる。

――コン、コンッ。

「聖矢、僕だよ」

――…………。

「お前に起こったことを今聞いた。辛い思いをしたんだな」

――…………。

「何があったのか、全部僕に話してみろ」

しばしの間を置き、扉の鍵が開く。

金色のドアノブに手をかけて押すと、浮かない顔をしてうつむく聖矢が立っていた。

僕は扉を背にし、彩矢香に告げる。

「男同士、ここはふたりだけで話させて」

「……うん」

部屋の中はひどく乱雑だった。

一日の、いや、その事件から大半の時間をここで費やしているのだと窺がえる。

僕はうつむいたままでいる聖矢の頭を撫で、同じ目線に膝を曲げた。

「開けてくれてサンキューな」

「…………」

華奢な身体をきつく抱きしめ、耳元で囁く。

「忘れもしないような辛い出来事は、いわば毒みたいなもんだ。身体の外に出せば、そのうち楽になる」

「グスッ、たつにぃ……」

そして、本人の口から事件の経緯が語られた。



 
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