ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】




昨日の会話を経由して、消したい過去が頭をよぎる。

直哉はたしかに、水泳の授業を見学していた大貫をプールに突き落とし、彼女をクラス中の笑い者にしたことがある。

そして、あの日から大貫への執拗なイジメが始まった。

僕はこの皮肉な因果に絶句する。

「もう一度言う。キミらも気を付けたほうがいい」

そんなセリフを吐き捨て、先生は警察署から去った。

うまく気持ちを切り替えられない僕の横に、そっと彩矢香が座る。

「あんまり真に受けないほうがいいよ」

「でも……」

「あれはゾイジェフト」

「え⁉」

「別名、セルトラリン。先生が飲んでた薬の名前」

開桜で二番目の成績だった秀才の彼女は、それが抗うつ薬だと教えてくれた。

すなわち、先生の精神状態は正常ではないということ。

余談だが、二番手の彩矢香に大きな差をつけてトップに君臨していたのは大貫。

彼女は紛れもない“天才”だった。

「サヤ! タツミ!」

「……アカネ」

「事情聴取は?」

「もう終わったよ!」

さっきとは打って変わった明るい表情。そこから想像するに、警察の疑いを晴らしたようだ。

ひとまず、取調室でのやり取りを訊く。

「刑事さんの質問は先生のことが半分で……」

それは容易に理解できた。

第一発見者を疑うのは、捜査の鉄則だから。

「他にはどんな?」

「あとはナオヤのこと。モメてた人はいなかったか、恨んでるような人はいなかったか、って」

「何て答えたの?」

彩矢香の間髪入れない問いに、茜は少し自信なさげに返す。

「分かりません……って答えた」

彼女の脳裏には今きっと、昨日の直哉と康文の修羅場が浮かんでいることだろう。

そう思うのは、僕がそうだから。



 
< 62 / 160 >

この作品をシェア

pagetop