ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】



――ッ、ッ。

「…………」

――コンッ、コンッ。

「辰巳、いるんでしょ?」

「ん゛~」

夕方6時。

すっかり暗くなった部屋に射しこむ母の声。

現実と夢の境界線を歩いてドアを開けた。

「何⁈」

「あんた、亮平クンのこと知ってるの?」

母の装いは喪服。首に真珠のネックレス。

「いや、知らない」

僕はこれから行こうとする場所が予想でき、知らぬ存ぜぬを装う。

「今朝亡くなったのよ! ニュースにもなってるわ」

「……そ」

「とにかく、早く着替えなさい」

「ぇでも、ちょっと予定が」

「何言ってるの!! あんた、幼なじみでしょ」

断る間もなく下に降りた母は、車のキーを握って外へ出た。

久しぶりの会話がこれかと、僕は渋々黒めの服を身にまとう。

そして、助手席ではなく後部座席へと腰を下ろした。

通夜の会場までは約15分。

着くまでの間、母が話しかけてくることはなかった。

受付を済ませて空いた席に座っていると、僕らを見かけた亮平の両親が挨拶に訪れる。

その表情は、精根尽き果てているように見えた。

「この度は本当にご愁傷様でございます。何とお悔やみを申し上げてよいか……」

「水嶋さん。辰巳くんを含め、息子が大変お世話になりました」

涙ながらに頭を下げる母親。その肩を優しく抱く父親。

堅苦しい湿っぽい挨拶は大人同士に任せ、僕は些細な興味から祭壇の近くへ。

そこで、棺の小窓が固く閉ざされていることに気付いた。

察するに、両手足の再建手術は施されず収められているのだろう。

見るに堪えない棺の中とは真逆で、掲げられた遺影はアホみたいに笑っている。

こういった場面ではむせび泣くのが理想的だが、僕はぐっと唇を噛みしめた。

そんな僕の姿を見てか、亮平の母親が僕の肩に手を添え、嗚咽交じりに言う。



 

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