ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
「そうよね……悔しいわよね。この子の人生はまだまだこれからだったのに……」
僕は顔を背け、強く舌を歯に挟む。これ以上笑ってしまわないように。
「亮平は辰巳くんのことをすごく慕ってたわ」
そう。たしかにこいつは、すぐ僕の真似をした。
持ち物や服、中学受験に留まらず高校への進学も。
そのくせいつも僕より器用に使いこなし、上手に着こなし、成績だって上。
「とんでもありません。うちの息子に比べたら、亮平くんはご立派でした」
このように、偏差値の高さが人間の価値だと信じてやまない両親は何かにつけて比較し、いつしか僕に“ダメ息子”の刻印を押しつける。
夢を持っていたことはあった。父の法律事務所を継ぐ夢を。
しかし、何をやっても中の上でしかないデキの悪い長男ではなく、将来はふたりの姉に事務所を任せると父は言った。
大学1年の春にすべてが崩れ、以来家族との会話が少ない。
「何か私に手伝えることはありませんか?」
外面のいい母は、お茶汲みを任されてあくせく動き回る。
「約束があるので、僕は先に失礼します」
今はうわべだけの親友を偲ぶより、彩矢香とはるかに会う約束のほうが大事だ。
「亮平の分も、辰巳くんは後悔のないように生きて!」
「……はい」
体裁上、悲愴感を表情に出す。
だが胸の内は、憎き比較対象がいなくなった清々しさに満ち溢れていた。