ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(上) 【完】
オートロックの制御盤に備え付けられたカメラが、自動ドアを難なくすり抜ける霊の姿を映していた。
「来る……」
僕には分かった。正体不明の“ダルマ女”が、何故これを見せつけるのか。
「逃げるぞ!!」
いつの間にか横でへたりこんでいたはるかの腕を揺さぶり、鼓舞する。
標的は、おそらく彼女だから。
「起きろ!! 彩矢香!」
“夢なら覚めろ!”と願いながら、夢の中にいる彩矢香の肩を激しく揺らす。
「…………」
――ザザザザザザザザザザザザッ。
――ズザザザザザザッ。
とうとう、その存在はエレベーターに向けられたカメラにシフト。
徐々に、そして確実に、迫って来る。
「イャ゛! 死にたくない」
「ま゛、待てっ! はるか!」
彼女は髪を振り乱しながら、裸足で玄関を飛び出した。
後を追いかけるべきだが、ここに彩矢香だけを残すわけにはいかない正義感が阻む。
「おい゛、起きろって! 彩矢香!!」
「……ッハ!」
やっと願いが通じ、彼女は水底から這い出たように目を覚ます。
「今すぐここから逃げるんだ! さぁ、早く!」
「ぇなど、どういうこと? はるかは!?」
「そのはるかを追うんだよ!」
ヒジを強く掴んで引くと、彩矢香はとっさに携帯電話を取った。
「たしか……こっちだ!」
僕は記憶を頼りに非常階段へ向かう。
「階段で行くの?! エレベーターは!?」
「ダメだ! はるかもきっと階段を使ってる」
僕が最後に見たのは、這いずる女を迎え入れるように、エレベーターの扉がスッと開いたシーン。
“アレ”は今、このフロアを目指しているはず。
――カンカンカンカンカンカンッ。
螺旋状に奏でられるヒールの音と鉄のアンサンブル。
遮二無二足を漕いでも、はるかの背中は一向に見えない。面影すらも。
「くっ……まだ10階かよ」
その時だった。
「き゛ゃ゛あ゛―――ッ゛!!」
断末魔の叫び声が聞こえて、僕らは立ちすくむ。