ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】



得たものがなくなるということはすなわち、失うものは何も無いということ。

無気力なくせに痛みが付きまとって、それに耐えていれば周りの目なんて気にならない。

気付けば、シャワーを浴びながらうずくまっている私がいて、頭をめぐり巡るのは“死”だった。

何十件も入っている着信やメールに返す言葉が見当たらず、留守電に残っていた山口の声を聴いて、携帯を金魚鉢に沈める。

あの日から、一度も家を出ていない。

ずっと布団の中に包まって、瞼を上げたり下げたり、たまに物を口にし排泄、を繰り返しているだけ。

生きている実感はないから、死んでいることと変わりなかった。

首の皮一枚でつながっている私の命。それが何かと訊かれれば、母への愛と答えられる。

軽蔑した。奥歯が割れるような悔しさがいくつもあった。

でも、私を産んでくれた人はやはり裏切れない。

だから、まっとうに死ぬことができなかった。

そんな思いも知らず、自主退学の手続きに追われる母は、私を責める。

このときはまだ、顔を見れば怒りが込み上がってくるから、面と向かうことができずにいた。

昼夜を問わず向き合うのはネットの世界。

そこには果てしない深さがあって、自分を見ているようで共鳴した。

どんどんとのめり込み、やがてハッキング集団の仲間に迎え入れられる。

ちょうどその頃。

朝方、母がいつものように酔っぱらって帰ってきて、靴の上で寝ようとしていた。

そういう時に限り、私は毎回介抱する。どうせ、起きたら憶えていないから。

しかし、

『離せッ! このバカ娘!』

やけに機嫌が悪かった。うわ言から推測するに、漁師の恋人にフラれたらしい。

『デカいコブがある女とは、ヒッ結婚できないってさー』

そして、眠りへと落ちる寸前にこう言った。

『アンタなんか産むんじゃなかったなぁ……』



 
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