ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
身代金の額は、5,775,000円。
大企業のトップにしてみれば、はした金同然。両親はこう思うはずだ。
下手に犯人を刺激して息子が無事に帰らないより、指定された条件をすべて鵜呑みにして身代金を払った方が得策だと。
何のトラブルもなく事は進み、約600万を難なく手に入れた。
身体は無傷で解放された息子の姿に、ふたりはさぞ喜んだろう。
その金が、娘を殺すための資金になるなど知る由もなく。
手術の日は決めていた。4年に一度の2月29日、伊達磨理子の命日だ。
復讐の狼煙として、午前3時3分から30分間、都内の電光掲示板を数カ所ハッキングし、あの文言を垂れ流す。
そして、3日後の3月3日。宝泉彩矢香を火葬場に呼びだした。
方法は、犯罪の使い回し。聖矢を監禁していた時、彼女に向けての脅迫動画も撮っておいたのだ。
まんまと誘導された弟思いの姉は、切れる息を堪えながら建物内に現れる。
——カツッ、カツッ。
静寂の中に響き渡るヒールの音が、逐一その場所を教えてくれた。
——カツッ、カツッ。
『誰かいるの? 約束通り来たわ! 弟を返してッ!』
——カツッ、カッ……。
『だ、誰⁈』
柱の陰から月光に晒された私はこの時、顔が包帯で覆われていた。
夜の火葬場にそんな女が出現したら、
『ひぃい゛ぃ゛!!』
腰を抜かして当然。
『な゛何⁉ ぁあんたが弟を誘拐したの⁈』
——コツッ、コツッ。
立つことができない彼女は、私が迫ると腕の力だけで後ずさる。
『誰なの゛ッ、あんた!』
——コツッ、コツッ。
『ワタシ? アナタよ』
『は⁈ 聖矢はどこ⁉』
——コツッ、コツッ。
『今頃、おうちでスヤスヤ眠ってるわ』