ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】
幼なじみの後悔と初恋の再燃に触れたからこそ、私の実家を訪ねるという流れに逆らおうとはしなかった。
母に会いたい感情がふと過ぎったからだ。
でも、自然でなければならない。宝泉彩矢香とその周りに、静岡の住所を知る者はいないから。
私は水嶋くんの発想に乗ったフリをして、純清学園の校門へと向かった。
仁王立ちの警察官を素通りして、適当に時間を潰してから戻る。あたかも作戦成功のテンションで。
こうして向かったあのボロアパート。
約5年ぶりの再会。あんなにも心臓が身体から出たがった経験は無い。
心のどこかで期待していた。生みの親だから、着ぐるみの中身を見抜くんじゃないかと。
『どちらさん?』
ドアが開き、荒々しかった鼓動が一気にシュンとした。
母のあまりにも変わり果てた姿に言葉が出なかったから、心肺停止にほど近い。
しかし、
『あなた⁈』
母は、じっと私の目を見て蘇生する。
『もしかして、宝泉彩矢香さん⁉』
うん。期待した私がバカだった。
『え、えぇ。どうして私の名前を?』
素朴な問いかけに答えもせず、私たちは堕落を極めた家の中に足を踏み入れる。
そこで暴露された真実は、後にも先にもない人生最大の衝撃。
これ以上の裏切りを知らない。
娘の私にひた隠しにしていた事実を、他人の私に明かした。
嗚咽を堪えて泣く以外の術があるだろうか。
母の復讐に利用されていた哀れな娘。
卑劣な手段で焼き殺した女は血を分けた姉妹。
ずっと我慢していたんだ。母を困らせたくなったから黙っていたけれど、本当は父親という存在に強く憧れていた。
その父とはすでに会えていたのに、私自身が殺そうとしている。
自身がしていることを深く悔いた。
信念が、涙と同じようにボロボロと流れ落ちてゆく。