ダ・ル・マ・3・が・コ・ロ・シ・タ(下) 【結】



数秒だけ開いた自動ドアの向こうから、むせび泣く声ばかりが聴こえてきた。

恐るおそる踏み入れると、主治医はその時間を宣告する。

『三時三十七分……』

もうひとつの希望を摘み取りながら。

『ご臨終です』

『…………』

私には泣く気力も資格も無い。ただ呆然と立ち尽くすだけ。

思い出があったらどうだろう。皆と同じように涙を流せたろうか。

欲しい。

でも、今さら渇望したって遅すぎる。

『お父さん……ごめんなさい』

“ありがとう”が言えたなら、ほんの少し救われた。

その言葉は、前へ進むための分岐点になるから。

『ごめんなさい……』

他とは色が違う嘆きに、父を囲む親戚たちは絶句した。

そんなのどうだっていい。心の底から謝ることで、戻ってきてくれるのなら……。

『ご遺体を運び出す準備をします。申し訳ありませんが、待合室でお待ちください』

無駄だった。後悔をぶつけて人が甦るなら、不老不死は夢物語でなくなる。

それから5分も経つと状況は様変わり。

ほとんどが眉間にシワを寄せて、携帯を片手にずっと電話をしている。父の訃報を広めるためだ。

なにせ、宝泉グループの一大事。副社長は張り切っているようにも見えた。

役立たずの秘書に配慮し、次々と重役を病院に呼びつける。

まだ暗い午前6時。

顧問弁護士による遺言状の読み上げがはじまった。

失意の真っ只中にいた私が聞き取れたのは2つだけ。

財産は妻の香澄にすべて相続されることと、宝泉グループの代表取締役社長の座には私が就くこと。

もちろん、周囲はどよめいていた。

聖矢が大学を卒業するまでは、重役の誰かが引き継いで明け渡す。これが世襲のセオリーだから。

私の望んでいた通り。これ以上にない結果だった。

でも、心に陽が射しこまない。



 
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