再会した幼なじみは黒王子? ~夢見がち女子は振り回されています!~
車のドアを閉めて空を仰ぐと、オレンジ色と水色のグラデーションに変わりつつあった。
少し冷たい風が吹くとともに潮のにおいを感じたけれど、建物や木で隠れているのか海は見えない。
ここはどこなのだろうと車の前にいる航くんに近づいたとき、彼が私の手を取った。
「! 航くん、手……」
「紗菜のお望みのところに連れていってやるよ」
「ひゃっ……」
航くんはにやりと何かを企むような笑顔を見せて、歩き出す。
1日の最後に言い合いするのもなんとなく嫌で、このまま航くんのペースに乗せられてしまおうと、手を引かれるまま私も歩き出した。
斜め前を歩く航くんを見上げる。
昼間は考える余裕はなかったけれど、航くんも大人の男になったのだと改めて感じる。
背はさらに高くなって体つきはしっかりしたし、手の大きさやぬくもりも昔とは違う。
「なぁ」
「うん?」
「さっきの、紗菜の元カレなんだよな」
「元カレ」という言葉に心臓が痛む。
こんなふうに話題を出すということは、航くんもやっぱりいい気分ではなかったのだろう。
「うん……。あの、ごめんね? なんだか話合わせてもらっちゃって」
「いや、別にいいけど。まだ、好きなのか?」
「ううん。別れてから3年以上経つし、もう過去のことだよ。それに今は好きな人もいないし、そういうのいいかなって思ってるから」
「ふーん」
自然と本音が出た。
恋愛から目を背けるような自分の言葉が、ついさっき航くんに言われた「諦めてる」という言葉に重なったことに気づく。
でも、航くんは私の言葉に何も言ってこない。
今日の航くんなら茶化すことなく話を聞いてくれるような気がして、今の素直な気持ちを話してみようと思った。