鉄仮面女史の微笑みと涙
明日からの出張の準備を終えて帰宅したのは20時過ぎ
夫は先に帰宅していて、リビングでテレビを見ていた


「ただいま戻りました」
「……」
「あなた、明日から3日間出張に行って来ます」


夫は無言のまま寝室へ行ってしまった
私はため息をついて、お風呂を沸かしにバスルームへと向かう
そして自分の夕食の準備をするためにキッチンへ
海外事業部へ異動になってから、いつ残業になってもいいように夕食後の片付けが終わった後に次の日の夕飯の下ごしらえをし、朝に仕上げてお皿に盛り付け、冷蔵庫に入れるようにしていた
冷蔵庫を開けると夫の分が無くなっていたので、少しホッとして自分の分を取り出した
ラップを外してそれを捨てるためにゴミ箱を開けた
するとそこには夫の為にと準備していた夕飯が、そのまま捨てられていた
私はそのまま動くことが出来ず、立ち尽くしてしると夫が寝室から出てきた


「風呂は沸かしているのか?」
「……はい。もうすぐ入れると思います」
「じゃ、入ってくる。ああ、今日は外食したい気分だったから、外で済ませてきた」
「そうですか……」


夫はそれだけ言うとバスルームへと消えて行った
私は下唇を噛んで、両手を爪が食い込むぐらい握りしめた
でも明日からの準備をしなくちゃいけなかったので、夕飯を急いで食べて後片付けをし、寝室へと向かい荷造りを始めた
夫が寝室へと戻るのを待って私もお風呂に入り、洗濯機を回す
いつものようにお風呂から出た後、洗濯物を干してリビングへと向かうとテーブルの上には夫の腕時計
それを見て私は体が震えた
今日は夫に抱かれるのが嫌だと思った
しかし、ピルを飲んでいる私の生理周期を夫は把握している
夫が腕時計を置いている時、それは私がどう思おうが、私は逆らえないということ
私は大きく息を吐いて夫の寝室へ向かった

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