鉄仮面女史の微笑みと涙
先生の事務所に着くと、秘書の野上さんは外出していて、先生がコーヒーを出してくれた
そしてこれからのことを話し合った

私の場合、かなりの額の慰謝料を請求できるらしい
でも夫には支払い能力がない
それに、慰謝料を減額したいがために夫がごねる場合がある
でも、私はお金より何より夫と早く離婚したかった


「慰謝料は0を条件にとにかく離婚……でいいか?」
「はい、夫とは早く縁を切りたいので」
「本当にいいのか?」
「いえ、そうお願いしてるのは私ですから気にしないでください」


この条件を明日、夫と話してくるらしい
後のことは全て先生にお任せすることにした
コーヒーを飲んでいると先生が聞いてきた


「あの旦那、最初からあんな旦那だったのか?」
「いえ。付き合い始めの頃は優しかったと思います。恥ずかしい話ですが、夫は私が初めて付き合った人でした。だから、夫がだんだん変わっていくのが分かりながらも、こういうものなのかと」
「何も知らないあんたにつけ込んだってことか」
「すいません」
「あんたが悪い訳じゃない。悪いのは旦那だ」
「悪いのは夫?」
「そう。すぐには変われないかもしれないが、なんでも自分が悪いと思わないようにしないとな」
「私は悪くない……」
「そうだ」


私がそう言うと先生はにっこり笑った
それにつられて私も笑いそうになったが、すぐに俯いた


「笑ってもいいのに」
「え?」
「いや。そろそろ帰るか?」
「はい。じゃ、失礼します」
「何言ってんだ。送って行くよ」
「いえ、そこまでは……」
「1人で外歩くの怖いんじゃないか?」
「あ……」


そんな私を見て、先生はふっと笑った


「ほら、行くぞ」


先生はそう言って私を皆川部長の家まで送ってくれた
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