鉄仮面女史の微笑みと涙
週明けの月曜日、私は奈南美さんからもらったスーツを着て出勤した
物凄くスタイルが良く見えるので、なんだか恥ずかしかった
皆川部長と一緒に出勤する途中、社長にお礼が言った方がいいですよね?と聞いたら、社長の都合のいい時間を聞いてみると言ってくれた
デスクワークをこなしていると、内線電話が鳴った
奈南美さん……進藤課長からで、今なら社長の都合がいいらしい
でも皆川部長は外出していて居なかったので1人で行くことにした
席を外すことを宮本くんに伝え、秘書室へ向かう
秘書室へ入ると進藤課長が気付いて声を掛けてくれた
「高橋課長、1人?」
「はい、皆川部長は外出してるので」
「じゃ、私も一緒に行くわ」
進藤課長がそう言ってくれて、正直ホッとした
まだ社長と一対一で話すほどの度胸はなかったからだ
進藤課長と社長室へ入ると、初めてここに来た時と同じで、ソファーに座るように促されて、進藤課長と並んで座った
社長も目の前に座る
「離婚成立したんだって?名前は……」
「高橋ですよ、社長。この前ちゃんと言ったじゃないですか」
「相変わらず厳しいねぇ、進藤課長」
2人で談笑していたが、私は社長に頭を下げた
「社長、皆川部長から聞きました。色々とお気遣いいただいてありがとうございました。おかげで離婚できました」
「どうやら『鉄仮面』は取れそうだね」
私はびっくりして顔を上げると社長は笑っていた
「私の知り合いにN銀行の役員で三重野さんていう人がいるんだ。彼が言うには、君の元旦那は4ヶ月後に札幌の子会社に出向になる予定だったんだが、予定を早めて来週には札幌へ行かせるらしい」
「え?」
「先週、君が帰国してきた時に、元旦那が我が社の前で君を拉致したことを三重野さんに伝えてみたら、そういうことになったらしい」
「社長……」
「だから、その辺を歩いててバッタリ会うなんてことはないと思う」
それを聞いて私は手で口を押さえて下を向いた
そうでもしないと社長の前で泣いてしまいそうだったからだ
社長が私の為にしてくれたことだけでも嬉しかったし、正直まだ外を1人で歩くのは元夫に会ってしまうんじゃないかと怖かった
それがなくなると思うと、本当に嬉しかった
進藤課長はそんな私の背中を優しく撫でてくれている
「三重野さんは、もう二度と迷惑かけないようにすると言ってくれたよ」
「社長、それって?」
「一生地方の出向先か、また何かしでかしたら外国にでも飛ばすかもしれないそうだ」
「そうですか……良かったわね、高橋課長」
「今度は救えて良かった。なあ?進藤課長」
「ええ、本当に」
私は下を向いたまま何度も頷き、そして何度もありがとうございますと言った
それから数日後、勇気を振り絞って1人で会社帰りに奈南美さんから紹介された美容院に行った
美容院にたどり着いた時、1人で外出できた事に自信が持てた
それにしても、何年か振りの美容院はちょっと緊張した
どのようにしましょうか?と言われたが、よく分からなかったので、結べる程度の長さで後はお任しますと言って、終わるまで雑誌を読んでいた
そして、終わりましたよと言われて鏡を見てみると、見たことがない自分がいた
奈南美さんが言った通り、腕のいい美容師さんなんだろう
皆川部長宅に帰ると、2人ともびっくりしたようで、一瞬固まっていた
祥希子ちゃんに至っては、初めて見る人のように私をガン見している
翌日出勤すると、やっぱりみんなにびっくりされた
木下さんが
「『羊』って名前の女優さんに雰囲気が似てますね」
と言って、みんな納得したようだった
残念ながら私はその女優さんを知らなかったけど……
そして土曜日、私がアパートに行く日がやってきた
昨日先生から連絡があり、隣だし暇だからと、迎えに来てくれるそうだ
スーツケースに荷物を全部詰めて準備を済ませると、何かを察したのか祥希子ちゃんが抱っこ~と両手を広げてやってきた
私は祥希子ちゃんを抱っこして言った
「祥希子ちゃん、今までありがとね。また遊びに来るからね」
祥希子ちゃんはご機嫌で、きゃーと言った
振り返ると涙ぐんでる祥子ちゃんと、祥子ちゃんを苦笑しながら慰めている部長がいた
私は部長に祥希子ちゃんを手渡して、2人に頭を下げた
「本当にお世話になりました。なんとお礼を言っていいか分かりません。これからもよろしくお願いします。ありがとうございました」
そう言って頭を上げると、祥子ちゃんが抱きついてきた
「海青ちゃ~ん。寂しいよ~」
「何言ってんの祥子ちゃん。二度と会えなくなる訳じゃないんだよ?また遊びに来るし、奈南美さんともご飯食べに行くんでしょ?」
「そうだけど……やっぱり寂しいよ~」
そんなことをしていると、先生が迎えに来てくれた
「行けるか?」
「はい」
「荷物はスーツケースだけ?」
「はい、そうです」
先生がスーツケースを持ってくれて、私は2人に隠していたものを手渡した
「海青ちゃん?」
「高橋、これ何?」
びっくりしている2人に私は言った
「切子のペアグラスが入ってます。割ったグラスのお詫びと、今までのお礼です。良かったら使って下さい」
「海青ちゃん……そんなのいいのに」
「ありがとう、高橋。遠慮なくいただくよ」
「はい。じゃ、行きます」
私は玄関へと向かい、靴を履いて外に出た
振り向くと、3人で見送りに来てくれている
「じゃ、またね」
「うん。海青ちゃん、また遊びに来てね」
「うん。祥子ちゃんもね。じゃ、部長、月曜日に」
「ああ。柳沢も、またな」
「ああ」
「祥希子ちゃん、バイバイ」
「ばいば〜い」
バタンと玄関が閉まる
先生は歩き出したが、私はなかなか動けなかった
「高橋さん。行こう」
先生を見ると優しく笑っている
私が先生に駆け寄り、一緒に歩き出した
物凄くスタイルが良く見えるので、なんだか恥ずかしかった
皆川部長と一緒に出勤する途中、社長にお礼が言った方がいいですよね?と聞いたら、社長の都合のいい時間を聞いてみると言ってくれた
デスクワークをこなしていると、内線電話が鳴った
奈南美さん……進藤課長からで、今なら社長の都合がいいらしい
でも皆川部長は外出していて居なかったので1人で行くことにした
席を外すことを宮本くんに伝え、秘書室へ向かう
秘書室へ入ると進藤課長が気付いて声を掛けてくれた
「高橋課長、1人?」
「はい、皆川部長は外出してるので」
「じゃ、私も一緒に行くわ」
進藤課長がそう言ってくれて、正直ホッとした
まだ社長と一対一で話すほどの度胸はなかったからだ
進藤課長と社長室へ入ると、初めてここに来た時と同じで、ソファーに座るように促されて、進藤課長と並んで座った
社長も目の前に座る
「離婚成立したんだって?名前は……」
「高橋ですよ、社長。この前ちゃんと言ったじゃないですか」
「相変わらず厳しいねぇ、進藤課長」
2人で談笑していたが、私は社長に頭を下げた
「社長、皆川部長から聞きました。色々とお気遣いいただいてありがとうございました。おかげで離婚できました」
「どうやら『鉄仮面』は取れそうだね」
私はびっくりして顔を上げると社長は笑っていた
「私の知り合いにN銀行の役員で三重野さんていう人がいるんだ。彼が言うには、君の元旦那は4ヶ月後に札幌の子会社に出向になる予定だったんだが、予定を早めて来週には札幌へ行かせるらしい」
「え?」
「先週、君が帰国してきた時に、元旦那が我が社の前で君を拉致したことを三重野さんに伝えてみたら、そういうことになったらしい」
「社長……」
「だから、その辺を歩いててバッタリ会うなんてことはないと思う」
それを聞いて私は手で口を押さえて下を向いた
そうでもしないと社長の前で泣いてしまいそうだったからだ
社長が私の為にしてくれたことだけでも嬉しかったし、正直まだ外を1人で歩くのは元夫に会ってしまうんじゃないかと怖かった
それがなくなると思うと、本当に嬉しかった
進藤課長はそんな私の背中を優しく撫でてくれている
「三重野さんは、もう二度と迷惑かけないようにすると言ってくれたよ」
「社長、それって?」
「一生地方の出向先か、また何かしでかしたら外国にでも飛ばすかもしれないそうだ」
「そうですか……良かったわね、高橋課長」
「今度は救えて良かった。なあ?進藤課長」
「ええ、本当に」
私は下を向いたまま何度も頷き、そして何度もありがとうございますと言った
それから数日後、勇気を振り絞って1人で会社帰りに奈南美さんから紹介された美容院に行った
美容院にたどり着いた時、1人で外出できた事に自信が持てた
それにしても、何年か振りの美容院はちょっと緊張した
どのようにしましょうか?と言われたが、よく分からなかったので、結べる程度の長さで後はお任しますと言って、終わるまで雑誌を読んでいた
そして、終わりましたよと言われて鏡を見てみると、見たことがない自分がいた
奈南美さんが言った通り、腕のいい美容師さんなんだろう
皆川部長宅に帰ると、2人ともびっくりしたようで、一瞬固まっていた
祥希子ちゃんに至っては、初めて見る人のように私をガン見している
翌日出勤すると、やっぱりみんなにびっくりされた
木下さんが
「『羊』って名前の女優さんに雰囲気が似てますね」
と言って、みんな納得したようだった
残念ながら私はその女優さんを知らなかったけど……
そして土曜日、私がアパートに行く日がやってきた
昨日先生から連絡があり、隣だし暇だからと、迎えに来てくれるそうだ
スーツケースに荷物を全部詰めて準備を済ませると、何かを察したのか祥希子ちゃんが抱っこ~と両手を広げてやってきた
私は祥希子ちゃんを抱っこして言った
「祥希子ちゃん、今までありがとね。また遊びに来るからね」
祥希子ちゃんはご機嫌で、きゃーと言った
振り返ると涙ぐんでる祥子ちゃんと、祥子ちゃんを苦笑しながら慰めている部長がいた
私は部長に祥希子ちゃんを手渡して、2人に頭を下げた
「本当にお世話になりました。なんとお礼を言っていいか分かりません。これからもよろしくお願いします。ありがとうございました」
そう言って頭を上げると、祥子ちゃんが抱きついてきた
「海青ちゃ~ん。寂しいよ~」
「何言ってんの祥子ちゃん。二度と会えなくなる訳じゃないんだよ?また遊びに来るし、奈南美さんともご飯食べに行くんでしょ?」
「そうだけど……やっぱり寂しいよ~」
そんなことをしていると、先生が迎えに来てくれた
「行けるか?」
「はい」
「荷物はスーツケースだけ?」
「はい、そうです」
先生がスーツケースを持ってくれて、私は2人に隠していたものを手渡した
「海青ちゃん?」
「高橋、これ何?」
びっくりしている2人に私は言った
「切子のペアグラスが入ってます。割ったグラスのお詫びと、今までのお礼です。良かったら使って下さい」
「海青ちゃん……そんなのいいのに」
「ありがとう、高橋。遠慮なくいただくよ」
「はい。じゃ、行きます」
私は玄関へと向かい、靴を履いて外に出た
振り向くと、3人で見送りに来てくれている
「じゃ、またね」
「うん。海青ちゃん、また遊びに来てね」
「うん。祥子ちゃんもね。じゃ、部長、月曜日に」
「ああ。柳沢も、またな」
「ああ」
「祥希子ちゃん、バイバイ」
「ばいば〜い」
バタンと玄関が閉まる
先生は歩き出したが、私はなかなか動けなかった
「高橋さん。行こう」
先生を見ると優しく笑っている
私が先生に駆け寄り、一緒に歩き出した