鉄仮面女史の微笑みと涙
2人の関係
母が来た次の日は土曜日で、ゆっくり過ごしていたのだが、いい天気だったので近くの公園に散歩に行った

いつか座ったベンチに座り背伸びをしていると、先生が歩いて来るのが見えた


「よう。気持ちよさそうだな」
「あ、先生。こんにちは」


先生も隣に座り、背伸びをする


「気持ちいいな」
「そうですね。先生、昨日はありがとうございました」
「いいえ。お母さん、無事に帰ったのか?」
「はい。無事に帰ったと連絡がありました」
「そうか。あ、そうだ。ちょっとお願いがあるんだが」
「お願い、ですか?」


先生はちょっと照れたように鼻をポリポリしている


「昨日、お母さんから貰った干物。食べたいんだけど、俺が焼いたら絶対炭にする自信があるんだ。だから……」
「私に、焼いてほしいと……?」
「まあ、そんなところだな」
「先生の家で?」
「出来れば」
「干物を焼くんですか?」
「嫌ならいいけど……」


私の方を見ずにまだ照れている先生に、吹き出してしまった


「先生……なんか、可愛い」
「笑うなよ。しかも可愛いって何だよ」
「すいません。そうですよね。男の人は魚焼きグリルなんて滅多に使わないかもですね」
「まあ、な。一人暮らし長いんだが、干物には手を出したことなかったし」
「いいですよ。母が持ってきたものなので、私が責任持って焼いてあげます」


まだ笑っている私を見て、先生は苦笑していた


「悪い。頼む」
「はい。じゃ今から買い物にでも行きましょうか。ついでに他のおかずと常備菜も作りますね」
「いいのか?」
「もちろん。先生にはお世話になりっぱなしで何かお礼がしたかったから、ちょうど良かったです」
「ありがとう。助かるよ。じゃ、行こうか」
「はい」


先生は先に立ち上がると私の手を引いて立ち上がらせた
その手は離されることなく、繋いだまま2人で歩く
先生の手は温かくて、なんだか嬉しかった


食材を買い込み、先生の家へと向かう
地下の駐車場に車を止めて、エレベーターに乗り込む

私が住んでるアパートと違って、何から何まで素敵なマンションだなと思った
最上階に着くと、もう目の前は玄関だった


「最上階って、先生の家だけですか?」
「ああ。他のフロアは2戸だけど、最上階だけは俺ん家だけ。さあ、どうぞ」
「お邪魔します……」


玄関から廊下を抜け、リビングに入ると、そこから見える景色に目を奪われた


「うわぁ。凄い。綺麗」


私の家から見える景色よりさらに綺麗な景色が広がっていた
いつの間にか隣に来ていた先生が同じように景色を見ながら言う


「夜はもっと綺麗だぞ」
「見たいなぁ」
「見ればいいじゃないか。晩飯食ってけよ。どうせあんたが作るんだから」
「え?」


先生を見上げると、呆れたように私を見ていた


「そんなに驚くようなことか?」
「いいんですか?」
「俺の分だけ作って、その後帰って自分の晩飯作るの面倒臭いだろ?なら一緒に食べればいいじゃないか」
「そうですね。じゃ、そうします」


私がそう言うと、先生はにっこり笑って私の頭をポンポンと撫でた


「早速取り掛かりますね」
「何か手伝おうか?」
「いいですよ。先生は休んでて下さい。何かあったら呼びますね」
「分かった。道具とか調味料とか好きに使っていいから」
「はい。分かりました」

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