鉄仮面女史の微笑みと涙
今日のメニューは、鯖の干物、お味噌汁、ほうれん草の卵とじとご飯
常備菜は、ゴボウのきんぴら、かぼちゃの煮物、野菜とキノコのマリネを作った
途中、先生が何回か見に来たが、終わるまで待ってて下さいとキッチンから追い出した
一通り作り終える頃にはもう外は暗くなり始めていた


「先生。もう出来ますけど食べますか?」
「ああ。美味しそうな匂いで腹ペコだ」
「じゃ、食べましょう。私もお腹すきました」


私がテーブルに作ったものを並べていると、先生も一緒に並べてくれた


「わ、美味そう。よくこんなに作れたな」
「常備菜もちょっとずつ食べようかと思って。残りは冷蔵庫に入れてますから」
「サンキュ」


並べ終えると、先生はビールを出してきた


「飲むだろ?」
「はい」


即答した私に先生は吹き出した


「前に一緒に飲んだ時思ったけど、あんた酒強いだろ?」
「独身時代はザルって言われてましたね」
「ハハッ」


向かい合わせに座ると、ビールで乾杯して2人でグビッと飲む
思わず目が合って笑いあった
そして先生は手を合わせた


「いただきます」
「お口に合うといいですけど」


先生が味噌汁を一口飲んだ


「美味いな」
「本当ですか?」
「ああ」
「良かった」


私は安心して自分も料理を口にする
他の料理も先生は美味しいと言ってペロリと食べた
こうやって自分が作った料理を美味しいと言って食べてくれる事が、こんなに嬉しいとは思わなかった



「ご馳走様でした。ああ、美味かった」
「お粗末様でした」
「後片付けは俺がするから、あんたは休んでていいよ」
「え?いいですよ。私やりますから」
「食洗機に突っ込むだけだから気にすんな。それより、夜景でも見てろよ」


先生が窓の方を指差すので、私もそっちを見ると、綺麗な夜景が広がっていた


「うわぁ、凄い。ベランダ出てもいいですか?」
「いいよ。好きなだけ楽しんでこい」


後片付けを先生にお願いして、私はベランダに出て夜景を眺める
私のアパートと場所はそんなに変わらないのに、こうも景色が違うとは思わなかった
時間も忘れて夜景を楽しんでいると、先生に声をかけられた


「そろそろ中に入らないと風邪ひくぞ」
「あ、先生。後片付け終わったんですか?」
「ああ。そんなに気に入ったか?」
「はい。羨ましいです。こんな夜景が毎日見られるなんて」
「毎日見てると感動も薄れるけどな。ほら、早く入れって」


先生に促されてリビングに戻る
そこには、ワインとおつまみが用意されていた


「うわぁ。ワインだ」
「嬉しそうだな」
「はい」


リビングのソファーに座ると、先生がワインを注いでくれた
お互いグラスを持ってカチンと合わせ、一口飲む


「美味しいですね。このワイン」
「そうだろ?そんなに高くないんだけど、飲みやすいから気に入ってるんだ」


美味しいワインとこの夜景
そして先生との会話が楽しくて、どんどんお酒が進んでいった


「あんまり飲みすぎるなよ」
「え〜?この夜景。美味しいワイン。飲むなって言う方がおかしいです」
「そりゃ悪かったな」


先生は呆れたようにため息をついた


「頼むから他の男の前でそんなに飲むなよ」
「え?何でですか?」
「自覚ないのか?」
「何の?」
「いや、もういい」
「凄く気になるんですけど」
「だから、もういいって」
「言って下さいよ〜」


私が先生を軽く叩こうとすると、先生にその手を掴まれた
先生の顔は、凄く真剣な顔だった
< 44 / 92 >

この作品をシェア

pagetop