鉄仮面女史の微笑みと涙
「せ、先生?あの……」


私がびっくりしていると、先生はフッと笑って言った


「あんた酒が入るとほんのり赤くなって妙に色っぽくなる。特定の女がいない男なら誰でも堪らなくなるくらいに。自覚ないのか?」
「え?」


そうして先生は私の手に指を絡ませてきた
一気に鼓動が早くなる


「俺だってそんな男の1人なんだから、ちょっとは用心しろよ」
「……先生は、大丈夫ですよ。私、信用してますもん」
「そう言われると、喜んでいいんだか悪いんだか複雑な気分だな」


先生は自嘲気味に笑って私の手を離した
私は、その離された手がとても寂しかった


「そろそろ帰るか?送って行くよ。今日はご馳走さん。あんたの手料理美味かったよ」


先生はワイングラスを持ってキッチンへと行ってしまった
私も残った食器を持って、キッチンへと向かう



「あの、先生?」
「ん?」
「また、料理作りましょうか?迷惑じゃなければ」
「え?」


先生はびっくりして私を見ている


「いや、今住んでるアパートの家賃だって格安だし、色々よくしてもらってるんで、お礼というか……それに、誰かに美味しいって言ってもらえて私も嬉しかったし、今日こうやって、先生と一緒にご飯食べられて楽しかったし、だから……」


しどろもどろになってる私を見て、先生はぷっと吹き出した
私は恥ずかしくて両手で顔を覆って下を向いた


なんて事を言ってしまったんだろう
先生は社交辞令で私の料理が美味しいって言っただけかもしれないのに
また何か作りましょうか?なんて図々しいこと言うなんて、恥ずかしい
でも私は、また先生とこんな時間を過ごしたかった


私が顔を上げられずにいると、頭をポンポンと撫でられた


「ありがとう。あんたさえ良ければ、また作ってくれるか?俺も美味しい料理食べたいし」


顔を上げると優しい笑顔の先生がいた


「俺も、楽しかったよ」


そう言ってくれて、私は嬉しくて笑った


そして、これから週末は先生の家で料理を作ることにして、先生は美味しいお酒を用意してくれることになった


私が先生の家を出る頃には、23時を過ぎていた
隣だから送ってくれなくていいと言ったのだが、先生は送ると言って聞かなかった


「本当にいいんですよ?送ってくれなくて」
「いいから、行くぞ」


お互い靴を履いて玄関を出ようとした時、先生と目が合った
すると、先生は私を引き寄せて優しく抱きしめた


「せ、先生?」
「言っただろ?ちょっとは用心しろって。嫌か?俺にこうされるの」


ちょっと自信なさげに聞かれたのは気のせいだろうか?


私は首を横に振る
だって全然嫌じゃなかったから


「嫌じゃないです」
「そうか」


ギュッと一瞬抱きしめられて、腕が緩む
先生を見上げると、先生の顔がちょっと赤かった


「そんな色っぽい顔で見るなよ」
「え?」


私がきょとんとしていると、先生は私の額にキスをした

今度は私が赤くなる番だ
そんな私を見て、先生はハハッ笑った


「行こう。これ以上一緒に居ると、離れ難くなる」


そう言って先生は私の手を握って玄関を出た

ごく自然に手を出し繋いでくれる事が、凄く嬉しかった
この時ばかりは、隣のアパートに住んでる自分がうらめしく思った

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