鉄仮面女史の微笑みと涙
気付いた気持ち
あれから何度か先生と週末を過ごした
私が料理を作るだけでなく、買い物に行ったり、ドライブに行ったり、外食に行くこともあった
出かける時はいつも手を繋ぐようになったし、不意に抱きしめられたり、頰や額にキスされる事もある
最初はびっくりして先生に文句を言っていたが、最近は慣れてしまって素直に受け入れている自分がいる
ただ先生と一緒にいたいから、一緒にいる
そんな感じだった


そんなある日の金曜日
今日は海外事業部の飲み会をする事になっている
大きい仕事がひと段落したこともあり、皆川部長が久しぶりにみんなで飲むかと声をかけたのがきっかけ
先生に今日は飲み会ですと言ったら

「あまり飲みすぎるなよ」

と釘を刺された


そしてみんな定時で仕事を終わらせ、向かったお店は木下さんが選んだ創作料理のおしゃれな居酒屋


「こんなお店よく知ってましたね木下さん」
「そうでしょ?なかなか予約が取れないですけど、今日は運良く取れたんで、すごくラッキーです」


そんな事を喋りながら通されたのは、奥の方のテーブル席
みんな席に着くと、とりあえずビールで乾杯する
私がジョッキの大半を飲むと、みんなが歓声を上げた


「高橋、いい飲みっぷりだな。いける口か?」
「そうですね。どちらかと言うと、いける口です」


そう言うと、みんな笑った
そして隣に座っている神崎課長に勧められて、結構いいペースで飲みながら料理を楽しんでいた


「高橋課長、次何飲む?」
「そうですね。この焼酎をロックで」
「おお、やるね〜。じゃ俺もそれにしよ」


神崎課長が注文すると、皆川部長が呆れながら言った


「おい2人とも。ペース早いぞ。大丈夫か?」
「私はまだ全然大丈夫です」
「俺もっス」
「神崎が『っス』って言う時は、大分酔ってるだろ」
「全然酔ってないっス」
「完全に酔ってるな。木下、烏龍茶追加して」
「は〜い」


その会話にみんな笑う
私も笑っていたら、隣のテーブルの男性グループの1人と目が合った
私がペコッと頭を下げると、その男性は勢いよく立ち上がり「ちょっと行ってきます!」と元気よく宣言して、私達のテーブルにやって来た
男性グループのテーブルはやけに盛り上がっているが、私達は突然の事にびっくりしている
そして、その男性は顔を真っ赤にして私の前に立った


「あ、あの」
「え?!私ですか?」
「はい、あなたです!」


私はどうしようとみんなを見るが、みんなもびっくりして固まっていた
ただ神崎課長だけは烏龍茶を飲んでいたが……
私は、その男性に聞いてみた


「あの、何でしょうか?」
「初対面の方に失礼を承知で言わせて下さい!」
「はあ」
「もしよろしければ、僕と付き合っていただけないでしょうか!!」
「は?!」
< 46 / 92 >

この作品をシェア

pagetop