鉄仮面女史の微笑みと涙

そしてその男性は、私に手を差し出して頭を下げた
その声はかなり大きく、店内に響き渡った
店中の全員が注目しているのが分かる
私がどうしたらいいか分からないでいると、ちょっと酔いが覚めた神崎課長が口を開いた


「君、残念だね。この人彼氏いるよ。そこのうちの上司と同じくらいハンサムな彼氏が」


そう言って皆川部長を指差すと、今度は全員皆川部長に注目する
皆川部長は迷惑そうな顔をしていたが、みんな皆川部長を見ると、へぇ〜とかほぉ〜とか言いながらそれぞれのテーブルで盛り上がっている
私に突然告白をしたその男性は他のメンバーに慰められながらテーブルに戻って行った
そして、お騒がせしましたと、料理を一品置いて行った
私達はというと、突然の嵐のような出来事に静まり返っていた


「とりあえず、飲み直すか」


部長がそう言うと、木下さんが吹き出した
それを皮切りに、みんな笑い出した


「なんか、すいません。お騒がせしました」
「高橋課長のせいじゃないですよ〜。それにしてもびっくりしましたね。でも、さっきの人の気持ちも分からないではないですけどね〜」
「え？どういうことですか？木下さん」
「だって高橋課長、お酒が入るとほんのり赤くなって、すっごく色っぽいんですもん」
「は？」


以前先生に同じ事を言われた事を思い出す
まさか、木下さんにまで言われるとは思わなかった


「彼氏さんが今日飲み会って知ってたら、心配でしょうがないでしょうね」
「大丈夫ですよ。彼氏なんていませんから」
「だってさっき、神崎課長が……」
「あれは、私を助けてくれる為に神崎課長が言ってくれたんですよ。そうでしょ？神崎課長」


神崎課長を見ると、びっくりしたような顔で私を見ていた


「え？付き合ってないの？」
「は？」
「いや、だって、この前高橋課長と弁護士の柳沢先生が手を繋いで歩いてるの見かけたんだ。雰囲気もなんだかいい感じだったから、俺てっきり２人は付き合ってるもんだと」
「え？」
「本当に付き合ってないの？」


神崎課長の質問に答えられなかった
だって、自分でも先生のとの関係が何なのかよく分からなかったから