鉄仮面女史の微笑みと涙
先生が私達の所にやって来ると、私を見るなりため息をついた


「だからあまり飲み過ぎるなって言ったのに」


呆れたようにそう言われて俯いた
自分の気持ちを自覚して改めて先生の顔を見ると、何だか恥ずかしかったから
そんな私をよそに、先生はみんなに挨拶して、部長にお礼を言っていた


「皆川、高橋さん連れて帰るから」
「ああ、気をつけてな」
「ほら行くぞ」


そう言われてもなかなか動けないでいると、私の目の前に手が差し出された
そして……


「海青」


名前を呼ばれた事に驚いて顔を上げると、優しい笑顔の先生がいた


「帰ろう」


私はコクンと頷いて先生の手を取った
先生はその手を優しく握って、私を立ち上がらせた
みんなが「お疲れ様でした〜」「また月曜日に」と言ってくれているが、恥ずかしくて顔も上げずにペコッと頭を下げた
そしてそのまま、先生に手を引かれて店を後にした


店を出ると、止まっていたタクシーに乗り、先生が行き先を告げるとタクシーは発車した


「車で来たかったんだけど、俺も家で飲んでたからタクシーで来たんだ」
「そう、なんですか」


それきり会話はないまま沈黙が続いた
チラッと先生を見ると、先生は窓の外を見ていて何か考えているようだった
そしてタクシーは私のアパートの前で止まり、2人ともそこで降りた
タクシーが走り去ると、先生は私の手を握ってきた


「海青」


名前を呼ばれてビクッとすると、先生は握っていた手に力を込めた


「今日、俺の家に泊まらないか?」
「え?」


びっくりして顔を上げると、先生は吹き出した


「そんな不安そうな顔するなよ。別に一緒に寝ようとは言ってないだろ?海青は客室使ってくれればいい。ただ、俺が一緒にいたいだけ。それに、色々話もしたいし。ダメか?」


そう言った先生に、首を振る
私も先生と一緒にいたいし、話がしたかった


「着替え用意して来いよ。出来れば日曜日まで一緒にいたいから2泊分な。俺はここで待ってるから」
「分かりました。じゃ、着替え用意してきます。2泊分」


私の言葉に先生はホッとした顔をして、私をそっと抱きしめて言った


「ありがとう」


私は抱き締められたまま首を横に振り、そっと先生の背中に手を回した
体が離れるとお互い笑い合って、私は着替えを取りに部屋へと戻った
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