鉄仮面女史の微笑みと涙
後片付けをして、お風呂を入れる
夫がお風呂に入った後、私がお風呂に入り、その間に洗濯機を回す
お風呂から出た後、洗濯物を干して、一息つくためにリビングのソファに座るとテーブルの上に夫の腕時計が置いてあった
それを見て、私の体は強張る
それは、夫の寝室にこの腕時計を持って来いということ
つまり、今日は夫に抱かれるということ……
私は腕時計を持って、夫の寝室のドアをノックした


「失礼します」
「……」


私が寝室に入ると夫はベッドのヘッドボードを背もたれにして雑誌を読んでいた
私は腕時計をサイドテーブルに置くと、パジャマと下着を脱いだ
その間に夫も一糸纏わぬ姿になる
私が夫のベッドに入ろうとすると、右腕を夫に引っ張られて突っ伏した


「きゃ」
「声を出すな。萎える」
「……ごめんなさい」


夫はいつものように私を後ろから貫く為に腰を持ち上げた
そして前触れもなく私の中に入ってきて腰を打ち付ける
夫の動きに耐えるように、私はシーツを握りしめ、声が漏れないように顔をシーツに押し付け下唇を噛む
そしてこう思うのだ


お願い、早く終わって……


やがて夫の動きが止まり私の中に熱いものが広がる
私の心には虚しさが広がった
夫が私から体を離すと、私はいつものようにベッドに突っ伏した
いつもなら夫はすぐにバスルームに向かうのに今日は違った
突っ伏している私の顔を自分の方に向けたのだ
夫の顔が目の前にあるだけで私の体は強張る


「これから家事が疎かになる君を抱いてやるんだ。今日から君を抱いた後は僕にお礼を言ってもらおう。分かったね?」
「はい……抱いてくれて、ありがとうございます。あなた」
「それでいい」


夫は満足したように頷いてバスルームへ向かった
私は体を起こしてパジャマと下着を身につけた
そして急いで自分の寝室へと移動し、ドレッサーの前に座り自分の顔を見る


「なに泣きそうな顔してるの。泣いちゃダメ。大丈夫、大丈夫……」


下唇を噛みながら自分に言い聞かせていると、夫が寝室に戻る音がしたので、私はピルを取り出しキッチンへと向かった
すると寝室に入ったはずの夫が部屋から出てきてキッチンまでやってきた


「ちゃんと薬は飲んでいるようだな」
「はい」
「君みたいな女が母親になっても子供がかわいそうなだけなんだから、これからも飲み続けるんだ。分かったね?」
「はい、あなた」
「おやすみ」
「おやすみなさい」


私は薬を飲むとバスルームへ向かい、洗面所の鏡を見る


「またひどい顔してるわよ……」


自分の顔を見るのに耐え切れず急いでシャワーを浴びた
下唇を噛みながら……
今日の夫はいつもと違った
多分、今までの生活が変わるのが嫌なんだろう
そういう時は容赦なく私を追い詰める
そうすることで夫が満足するんなら私は耐えなきゃいけないんだと本当に思っていた
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