鉄仮面女史の微笑みと涙
「……何でまだここに居るんだよ」


呆れたような声に顔を上げると、お風呂上がりの妙に色っぽい透吾がいた


「透吾もお風呂上がりは色っぽいね」
「そんな事言ってる場合じゃないだろ?早く客室に行けよ」
「……じゃない」
「え?」
「嫌じゃないと思ったの」


言葉を失っている透吾の手を握った


「嫌じゃないと思ったから、ここに残ったの」
「海青……」
「透吾こそ、私でいいの?」
「え?」
「だって、私は別れた夫しか経験がない。だから、透吾を満足させてあげられないかもしれない。それでもいいの?」


元夫に抱かれる時は、私の意思なんか関係なかった
ただ早く終わればいいと思っていた
男の人を喜ばせる方法なんて、私は知らない


私が俯いていると、握っていた手に力が込められた


「いいに決まってるじゃないか。俺は海青に何かして欲しくて抱きたいと思ってるんじゃない。海青が好きだから抱きたいんだ」


顔を上げて透吾を見ると、今まで見た事のない男の顔をした透吾がいた


「大事にする。俺は海青が嫌がる事は絶対しない」


そう言うと、手を引かれて立ち上がり、一緒に透吾の寝室へ入って行った
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