鉄仮面女史の微笑みと涙

私が資料を見ていると、社長が話し出した


「高橋課長は、我が社でも将来女性幹部を登用しようとしているのは知っていたかい？」
「はい。噂では聞いた事があります」
「いいも悪いも、このＦ社は老舗企業でね、なかなか女性が役員になることはなかった。でも私が社長のうちにそれを変えたいと思っている。その資料を見てもらえれば分かると思うが、みんな優秀な女性社員だ。その中でも高橋課長は、特に優秀だと思っている。だから君なら分かるはずだ。その資料を見て、君と他の候補たちとの違いがね」


にわかに信じ難い話だったが、社長の言う違いを探す

それは、本当に簡単な事だった


「海外勤務の有無ですか？」
「さすが、高橋課長。すぐに分かったね。君の将来、いや、会社の将来を考えると、高橋課長には海外での経験を積んで欲しいと思ってる。だから……」
「社長。私は反対です。今、高橋課長に海外事業部を抜けられると非常に困ります。以前から散々言ってる事だと思いますが」


社長の言葉を遮って皆川部長が口を挟む
部長が社長を睨んでいるが、社長はそれを無視して言った


「高橋課長、君には来月からイギリス支社に行ってもらう。それと皆川、お前もそろそろ取締役に専念しろ。それに伴い、海外事業部の人員を増やす。詳しい事はさっき皆川に渡した通知書の通りだ。話は以上だ」


そう言って社長は席に戻った
ため息をついている部長と、突然の出来事に呆然としている私を置いて