鉄仮面女史の微笑みと涙
透吾と付き合いだしてから、私はアパートを引き払い、透吾の家で暮らしていた
透吾といつも一緒に居られる
そんな幸せな時間が続くものだと思っていた


「ただいま」
「おかえり。早かったな」
「うん。透吾も早いね」
「飯、作ろうかと思って」
「作ってくれたの?」
「簡単なやつだけどな。着替えてこいよ。腹減ってどうにかなりそう」
「は〜い」


いつか通された客室がそのまま私の部屋になっている

部屋着に着替えながらふと思う


こんな会話ができるのもあと1ヶ月……


込み上げてくる涙を我慢してキッチンへ向かう


「何作ったの?」
「カルボナーラ。海青好きだろ?」
「やった。透吾のカルボナーラ大好き。何か飲む?」
「いや、後で飲もう。話したいし」
「そうだね」


カルボナーラとサラダとスープをテーブルに並べて、2人とも椅子に座る


「いただきます。うん、やっぱり透吾のカルボナーラは美味しい」
「そりゃ良かった」


それから会話しながら食べていたが、2人とも私の転勤の話はしなかった
ただ今は、この美味しい夕食を楽しみたかった
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