鉄仮面女史の微笑みと涙
夕食も食べ終わり、いつもだったらソファーに座って夜景を楽しみながらワインを飲む
でも今日はワインもなく、ただ2人で座っているだけだった


「なあ、海青」
「なあに?」
「海外に勤務になった場合って、大体どれくらい行ってるんだ?」
「別に決まってはないけど、3年は行ってる人が多いかな」
「3年か……長いな」
「うん」


最低3年は透吾と離れ離れ
そんなの耐えられるんだろうか?


「あ、そうだ。海青、今度の週末、大分の実家に帰ったらどうだ?」


突然の提案に驚いた
そう言われて、母にいつか帰るからと言っていたが離婚してからまだ帰っていなかった


「今度はそう簡単には帰れなくなるんだから、日本を発つ前に帰った方がいい」
「そうだね」
「俺も一緒に行くから」
「え?」


また驚いて透吾を見ると、にっこり笑っていた


「そんなに驚かなくても」
「いや、だって」
「ちゃんと海青の両親に挨拶したいと思ってたんだ。俺飛行機のチケット取っとくから、ちゃんと実家に連絡しとけよ」
「うん。分かった。透吾、ありがとう」
「あと1ヶ月か……あっという間なんだろうな」
「……そうだね」


それからすぐに実家に連絡して、転勤の事と透吾の事を話した
母はびっくりしていたが、待ってるからと言って、電話を切った


その夜、透吾は執拗に私を抱いた
明日も仕事だというのに、なかなか離してはくれなかった
透吾は避妊をしなかった
それが意図的なのか無意識なのかは分からなかったが、私は受け入れた
私の中にこんな思いがあったから


妊娠したら、転勤が無くなるかもしれない


透吾も同じ思いならいいのにと
そう思わずにはいられなかった
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