鉄仮面女史の微笑みと涙
帰省、そして……
「海の香りがするな」
「うん。懐かしいなぁ」


私と透吾は今、私の実家がある大分県にいる
空港でレンタカーを借りて、2時間ぐらい走っただろうか
私が育った町が見えてきた


「そういえば、祥子ちゃんと奈南美ちゃんには海青がイギリス行くって伝えたのか?」
「旦那さん達が同じ部署だからね、すぐに連絡きたよ」


透吾はいつからか、相川夫妻の事を、健次くんと奈南美ちゃん、祥子ちゃんの事も名前で呼ぶようになった

いちいち『海青の同僚の相川くんとそのカミさん』とか、『皆川のカミさん』とか言うのが面倒臭くなったらしい


「寂しいって言ってた?」
「うん。2人とも妊婦だからか涙腺弱くなってて大変だった」
「そりゃ、皆川と健次くん大変だったろうな」
「そうかもね」
「で?行く前に会ったりしないのか?」
「うん」
「何で?会えばいいのに」
「2人とも、『先生との時間を大事にした方がいい』って言ってくれたの」
「そうか。優しい友達だな」
「本当に。そう思う」


私が俯いていると、透吾が頭を優しく撫でてくれた
そしてしばらくすると、実家が見えてきた
何故か母が外で待っていた

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