鉄仮面女史の微笑みと涙
車から降りると、泣いているのか笑っているのか、訳の分からない顔をした母がいた


「お母さん、ただいま」
「海青、お帰り。透吾さんもこんな田舎まですいませんねぇ」
「いえ。明日までお世話になります」
「お母さん、お父さんは?」
「中で待っちょんよ。『海青はまだか?』ち何回も外見に行けち言われたんよ?自分で行けばよかろうに。さあ、早く上がりんさい。透吾さんも、狭苦しいとこですがどうぞ」


母に促されて家に上がる
久しぶりの実家は全然変わってなかった
居間に行くと、父がテレビを見ていた


「お父さん、ただいま」
「あぁ?ああ。お帰り。早かったのう」


こっちを全然見ようとしない
どうしたもんかと透吾と顔を見合わせた


「ちょっと、あんた。テレビなんか見よん場合じゃなかろうもん?あんだけ海青が帰って来るの待っちょったんはどこの誰ね?透吾さんも来ちょんのよ?ちゃんと挨拶せんね。透吾さん、すいませんねぇ。座って下さい」


母はテレビを消して、台所に行ってしまった
私と透吾が座ると、父もやっとこっちを向いた
その顔はちょっと照れ臭そうだった

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