鉄仮面女史の微笑みと涙
「久しぶりやのぅ、海青」
「うん。ごめん。全然帰らんで」
「色々言いたいことあったけんど、お前の顔見たら、全部吹っ飛んでしもうたわ」


そう言って笑った父の顔は、前よりもシワが増えていた
そして父は真剣な顔をして透吾に向き合った


「初めまして。海青の父です。この度は娘が大変お世話になりました。ありがとうございます」


そう言って深々と頭を下げる父に、透吾は慌てていた


「いえ、私はただ仕事をしただけですから。それに私の方こそ海青さんとのことで……」
「それも含めて、よろしゅう頼んます」


透吾の言葉を遮って父が言った
ようやく頭を上げた父は、ニィっと笑った


「堅苦しい挨拶はこの辺までにしとこうえ。わしゃこげな空気が好かんけん」


そう言うと、父は一升瓶をドンっとテーブルに置いた


「透吾。あんたいける口なんか?」


クイっと酒を飲む振りをする父に、透吾はフッと吹き出した


「海青さんほどじゃありませんが」


すると2人は声を出して笑った


「そうかい。じゃいける口やの。母ちゃん、早よツマミ持って来んか」
「なんね。もうお酒飲むんね。しょうがない人たちやねぇ全く。お父さん、透吾さん明日も車運転するんやけん、あんまり飲ませたらいけんよ。海青、ちょっと手伝って」
「あ、は〜い」


大丈夫かなと、父と透吾を置いて台所に向かうと、母が楽しそうに支度をしていた


「お父さん、透吾さんとお酒飲むの楽しみにしとったんよ」
「え?何で?」


電話では一応透吾と付き合っているとは言っていた
反対されるとは思っていなかったが、そこまで楽しみにしてるとは思っていなかった

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