鉄仮面女史の微笑みと涙
役員室や社長室は、秘書室の奥にあるので社長室に行くには秘書室を必ず通ることになる
私達が秘書室に入ると、秘書室のメンバーにお疲れ様ですと言われ、私も同じように返した
皆川部長は社長秘書でもある進藤課長に社長への取り次ぎをお願いした
「すいません、まだ先客が終わってなくて。ちょっと待ってていただけますか?」
「ああ、構わないよ。進藤課長、こちら今日からうちの第3課課長になった加納海青さん。これからよろしく」
「あ、加納海青です。よろしくお願いします」
私が進藤課長に頭を下げると、進藤課長はにっこり笑ってよろしくお願いしますと言った
「相川課長から聞いてました。加納課長、海外事業部でもすっごく頼りになるって言ってました」
「いえ、そんなことは……」
「でも、加納課長が情報管理部からいなくなったのは痛手だわ。うちもよく情報管理部には加納課長を指名して資料を依頼してたから。これからは余裕持って依頼しなきゃいけないわね」
進藤課長の信じられない言葉に私はびっくりして言葉を失った
そしてまた信じられないことに、秘書室のメンバーもそれに同意していた
「皆川部長、加納課長を引き抜いたこと、恨みますよ」
「うわぁ、怖い怖い……それは済まなかったねぇ」
そう言って、2人は笑い合っていた
私はそんな2人を他人事のように見ていた
自分のことでこんなに笑い合って話しているなんて信じられなかったからだ
私がぼーっとしていると、皆川部長がそうだと言った
「加納課長、君の履歴書見て分かったんだが、君とうちの妻、同い年で同じ大学なんだよ。君は在学中に留学してるから、卒業はうちの妻とはずれてるみたいなんだが、妻に聞いてみたら君のこと覚えてたよ。君の下の名前が珍しいからすぐ思い出したみたいだ」
「そうなんですか?」
「うちの妻の旧姓、『加山』って言うんだ。『加山祥子』って覚えてないかな?」
「加山……祥子さん?……もしかして、『妄想族の祥子ちゃん』ですか?」
一瞬沈黙が流れたが次の瞬間、皆川部長と進藤課長が大爆笑した
私はあまりの出来事に唖然とした
秘書室のメンバーもびっくりしている
「そう、そうなんだ……その『妄想族の祥子ちゃん』、うちの妻なんだ。間違いない……ははっ」
「妄想族って……もう、加納課長、面白すぎる〜あははっ」
私が『妄想族の祥子ちゃん』と言ったのは、祥子ちゃんにはいつでもどこでも空想の世界に飛んで行けるという、非常に面白い特技を持っていたからだ
その空想している間に百面相をしているものだから、引く人は引いてしまう
でも、祥子ちゃんはなんというか、ほんわかしているのに芯はしっかりしていて、一緒にいて居心地がいい人で、私が留学する前まではいつも学校で一緒にいたように思う
皆川部長の奥さんが祥子ちゃんだというのを知ると、あの『鬼の皆川』が自他共に認める愛妻家になったことにも納得がいった
「えっと、進藤課長も祥子ちゃんのこと知ってるんですか?」
私が恐る恐る聞くと、やっと2人は落ち着きを取り戻した
「そうなの、数年前から仲良くしてもらってるの」
「今じゃ、僕や相川課長が妬くぐらい仲がいいよ」
そう言うと、また2人で笑いあった
そんな2人を見て思った
「祥子ちゃん、幸せなんでしょうね」
私がそう言うと、皆川部長はこう言った
「うん。祥子がそう思ってくれてるのを願ってる」
にっこり笑う部長を見ると、私は下を向いて下唇を噛んだ
「加納課長、祥子が君に会いたがってたよ」
「え?」
私はびっくりして部長を見た
「君が留学して疎遠になったこと、後悔してた」
「そう、なんですか……でも、私、土日は家のことしなくちゃいけないので……ちょっと無理かもしれません」
私はそう言って俯いたので、皆川部長と進藤課長が訝しげに顔を見合わせたことに、私は気が付かなかった
そうしていたら、進藤課長の内線電話が鳴った
「皆川部長、社長の先客終わりました」
「分かった。じゃ行こうか、加納課長」
「はい」
皆川部長と私は社長室へと向かった
私達が秘書室に入ると、秘書室のメンバーにお疲れ様ですと言われ、私も同じように返した
皆川部長は社長秘書でもある進藤課長に社長への取り次ぎをお願いした
「すいません、まだ先客が終わってなくて。ちょっと待ってていただけますか?」
「ああ、構わないよ。進藤課長、こちら今日からうちの第3課課長になった加納海青さん。これからよろしく」
「あ、加納海青です。よろしくお願いします」
私が進藤課長に頭を下げると、進藤課長はにっこり笑ってよろしくお願いしますと言った
「相川課長から聞いてました。加納課長、海外事業部でもすっごく頼りになるって言ってました」
「いえ、そんなことは……」
「でも、加納課長が情報管理部からいなくなったのは痛手だわ。うちもよく情報管理部には加納課長を指名して資料を依頼してたから。これからは余裕持って依頼しなきゃいけないわね」
進藤課長の信じられない言葉に私はびっくりして言葉を失った
そしてまた信じられないことに、秘書室のメンバーもそれに同意していた
「皆川部長、加納課長を引き抜いたこと、恨みますよ」
「うわぁ、怖い怖い……それは済まなかったねぇ」
そう言って、2人は笑い合っていた
私はそんな2人を他人事のように見ていた
自分のことでこんなに笑い合って話しているなんて信じられなかったからだ
私がぼーっとしていると、皆川部長がそうだと言った
「加納課長、君の履歴書見て分かったんだが、君とうちの妻、同い年で同じ大学なんだよ。君は在学中に留学してるから、卒業はうちの妻とはずれてるみたいなんだが、妻に聞いてみたら君のこと覚えてたよ。君の下の名前が珍しいからすぐ思い出したみたいだ」
「そうなんですか?」
「うちの妻の旧姓、『加山』って言うんだ。『加山祥子』って覚えてないかな?」
「加山……祥子さん?……もしかして、『妄想族の祥子ちゃん』ですか?」
一瞬沈黙が流れたが次の瞬間、皆川部長と進藤課長が大爆笑した
私はあまりの出来事に唖然とした
秘書室のメンバーもびっくりしている
「そう、そうなんだ……その『妄想族の祥子ちゃん』、うちの妻なんだ。間違いない……ははっ」
「妄想族って……もう、加納課長、面白すぎる〜あははっ」
私が『妄想族の祥子ちゃん』と言ったのは、祥子ちゃんにはいつでもどこでも空想の世界に飛んで行けるという、非常に面白い特技を持っていたからだ
その空想している間に百面相をしているものだから、引く人は引いてしまう
でも、祥子ちゃんはなんというか、ほんわかしているのに芯はしっかりしていて、一緒にいて居心地がいい人で、私が留学する前まではいつも学校で一緒にいたように思う
皆川部長の奥さんが祥子ちゃんだというのを知ると、あの『鬼の皆川』が自他共に認める愛妻家になったことにも納得がいった
「えっと、進藤課長も祥子ちゃんのこと知ってるんですか?」
私が恐る恐る聞くと、やっと2人は落ち着きを取り戻した
「そうなの、数年前から仲良くしてもらってるの」
「今じゃ、僕や相川課長が妬くぐらい仲がいいよ」
そう言うと、また2人で笑いあった
そんな2人を見て思った
「祥子ちゃん、幸せなんでしょうね」
私がそう言うと、皆川部長はこう言った
「うん。祥子がそう思ってくれてるのを願ってる」
にっこり笑う部長を見ると、私は下を向いて下唇を噛んだ
「加納課長、祥子が君に会いたがってたよ」
「え?」
私はびっくりして部長を見た
「君が留学して疎遠になったこと、後悔してた」
「そう、なんですか……でも、私、土日は家のことしなくちゃいけないので……ちょっと無理かもしれません」
私はそう言って俯いたので、皆川部長と進藤課長が訝しげに顔を見合わせたことに、私は気が付かなかった
そうしていたら、進藤課長の内線電話が鳴った
「皆川部長、社長の先客終わりました」
「分かった。じゃ行こうか、加納課長」
「はい」
皆川部長と私は社長室へと向かった