鉄仮面女史の微笑みと涙
透吾が私を呼んだ
私はビクっとして立ち止まる


「あまり無理すんなよ。しんどくなったら連絡しろ。すぐに飛んで行くから」


その言葉に涙が溢れ、透吾の方へと駆け寄った
透吾は両手を広げ、私を受け止め力強く抱きしめる


「……透吾、私」
「ん?」
「……たくない」
「え?」
「イギリスになんか、行きたくないっ!」
「海青……」
「私が行ったからって立て直せる訳ないじゃない。だったら他の人をイギリスに行かせればいいじゃない。何で私なの?私なら出来る?簡単に言わないでよ。私に期待しないでよ。私は、透吾と離れたくない。透吾と一緒にいたい。それだけなのに、何で邪魔するのよっ!!」


とうとう言ってしまった
ここ最近思ってても言えなかった事を
言ってもどうにもならないのに……
こんなタイミングで、言ってしまった


泣きながら叫んだ私を透吾は更にギュッと抱きしめ私の頭を優しく撫でる


「なあ、海青。会社辞めちまうか?」
「……え?」


驚いて見上げると、透吾はフッと笑って言った


「会社辞めたらイギリスなんか行かなくて済むだろ」
「透吾?」
「俺だって海青と離れたくないからな」
「いや、でも……」
「それに」


透吾はニヤッと笑った


「海青が会社辞めても、養うだけの稼ぎと財産はあるぞ」
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