鉄仮面女史の微笑みと涙
「……何で?仕事は?」
「無理矢理終わらせた。迎えに行けなくてごめん」
「だって、大切な案件抱えてるって」
「心配すんな。何とかなるから」
「でも……」
「海青」


夫が優しい笑顔で両手を広げる


「お帰り」


私は迷う事なく夫の腕に飛び込んだ
涙が溢れて止まらない


「……ただいま、っ」


夫が力強く私を抱き締める
それが本当に幸せで、やっと帰って来れたと思った


「海青」


夫は私の顔を両手で包み真っ直ぐ見つめる


「顔、見せて」
「……透吾?」


しばらくそうしていたが、夫は安心したように笑った


「しんどい時は飛んで行くって言ったのに来るなって言うし、たまの休暇も帰って来ないし、本当に俺のカミさんは頑固で意地っ張りで困ったもんだ」
「……ごめんなさい」
「まあそんな女に惚れたんだからしょうがないな」


そう言った夫に思わず吹き出した


「笑い事じゃねえし」
「だ、だって。ふふっ」
「今日は疲れてるだろうから勘弁してやろうと思ってたのに」
「え?や、きゃっ」


急に抱き上げられて連れて行かれたのは寝室


「ちょっと待って、透吾!」
「もう待ちすぎた」
「だってまだ昼過ぎ!」
「よし、時間はたっぷりあるな」
「そう言う問題じゃ、きゃっ」


ベッドに降ろされ、上に乗られて身動きがとれない


「観念しろ。疲れたら寝ていいから」


それだけ言うと深いキスを落とされ、服が脱がされる
私は観念して力を抜いた
そして久しぶりに夫に抱かれる幸せを嫌という程感じるのであった


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