溺甘副社長にひとり占めされてます。


「実はね、営業部が仕事遅くて。今から会議で使うデータがなかなか上がってこないって、昨日から副社長がお怒りモードだったのよ」

「えっ!? そうだったんですか?」


今朝、白濱副社長とは会っている。しかし、私には機嫌が悪そうには見えなかった。むしろとっても優しくて……。

ほほ笑む彼の顔を思い出せば、頬が熱くなっていく。私は首を大きく横に振ってから、言葉を続けた。


「今朝、会いましたけど。私には普通に見えました」

「心のうちを簡単には見せない人だからね。普段ニコニコ笑ってるからみんな勘違いしてるけど、白濱副社長って仕事の鬼だから。とにかく厳しいのよ。全てにおいて完璧を求めてくるし、それに見合ってないと、徐々に笑顔が怖くなっていくし。彼の秘書になると、長続きしない人多くてね」


笑顔が怖い。そこは知っているかもしれない。

どうやらあの時の別人のような白濱副社長は、私の勘違いなどではなかったらしい。


「でも、木下さんの後任は心配なさそうだし。逃げないでね、館下さん!」


そう言って、藤田さんが私の背中を叩いてきた。


「後任って、変なこと言わないでください! 今回は偶然こうなっただけで!」


話の流れについていけなく焦り気味に否定していると、あははと笑っていた藤田さんがハッとした顔になり、口を閉じた。


< 66 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop