溺甘副社長にひとり占めされてます。
「実はね、営業部が仕事遅くて。今から会議で使うデータがなかなか上がってこないって、昨日から副社長がお怒りモードだったのよ」
「えっ!? そうだったんですか?」
今朝、白濱副社長とは会っている。しかし、私には機嫌が悪そうには見えなかった。むしろとっても優しくて……。
ほほ笑む彼の顔を思い出せば、頬が熱くなっていく。私は首を大きく横に振ってから、言葉を続けた。
「今朝、会いましたけど。私には普通に見えました」
「心のうちを簡単には見せない人だからね。普段ニコニコ笑ってるからみんな勘違いしてるけど、白濱副社長って仕事の鬼だから。とにかく厳しいのよ。全てにおいて完璧を求めてくるし、それに見合ってないと、徐々に笑顔が怖くなっていくし。彼の秘書になると、長続きしない人多くてね」
笑顔が怖い。そこは知っているかもしれない。
どうやらあの時の別人のような白濱副社長は、私の勘違いなどではなかったらしい。
「でも、木下さんの後任は心配なさそうだし。逃げないでね、館下さん!」
そう言って、藤田さんが私の背中を叩いてきた。
「後任って、変なこと言わないでください! 今回は偶然こうなっただけで!」
話の流れについていけなく焦り気味に否定していると、あははと笑っていた藤田さんがハッとした顔になり、口を閉じた。