溺甘副社長にひとり占めされてます。

彼女の視線を辿れば、ちょうど室内に白濱副社長が入ってきたところだった。

にこやかな表情で私たちに手を振ってから、彼は手近の机へと向かっていく。

あんなことを聞いた後では、その微笑みにも裏があるのではと勘ぐってしまう。

緊張しながら、彼の様子を盗み見た。

置かれてある資料を手に取り、一枚一枚目を通していく彼の表情に、すっと、真剣さが宿ったのを見て取り、ドキリとしてしまう。

鼓動が高鳴ってしまったのは、私たちの準備に漏れが無いかを確認しに来たのかもと考えたからだけではない。

その横顔をカッコいいと、素直に思った自分がいたからだ。

彼は小さく頷いた後、私たちのほうへとやってくる。


「ごめんね。せっかく並べてもらったんだけど、これだけ差し替えてくれるかな」


深野さんへと差し出した紙面には見覚えがあった。確か、遥子さんが営業部から預かった封筒の中に入っていたものだ。


「分かりました。それじゃ館下さん。向こう側から、差し替えお願い」


受け取った半分を私に渡すと、深野さんが廊下側の一番前の席を指さした。


「はい」


指示された席へ向かえば、深野さんも反対側にある窓側の席へと歩いていく。


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