溺甘副社長にひとり占めされてます。
「あの人、宍戸宝飾店の社長よね」
「宍戸宝飾店って、あの?」
「そう。確かうちの総務課に娘さんがいるはずだけど」
「……あ、はい。います。宍戸さん」
宍戸宝飾店は、銀座に本店を構え、創業も古く、ジュエリーから時計など独自のブランド力で根強い人気を誇る高級店だ。
彼女がその宝飾店社長の娘だったとは、まったく知らなかった。
「宍戸宝飾店のお嬢さんが、なぜうちの会社にって秘書課で話題になってたんだけど、どうやらその子、白濱副社長とどこかで会って、一目惚れしちゃったらしいのよね」
白濱副社長に近づくためだけに入社したというのなら、仕事にやる気が向かないことにも、納得させられてしまう。
「あぁ。だからさっき、うちの娘はどうかって、白濱副社長に押し売りしてたんですね」
淡々としつつも、どことなく棘のある言い方になってしまった。
ロイヤルムーンホテルの副社長と宍戸宝飾店の御令嬢。
肩書きを知ると余計に、ふたりがお似合いのように思えてきてしまう。
そして、上手くいくんじゃないかとも考えてしまえば、途端に胸の中がモヤモヤしはじめる。
なんだか、面白くない。
「あっ、あなたは、この前の」
俯き加減で歩いていると、突然、腕を掴み取られた。ハッとし顔をあげ、私は驚きで目を大きくする。